第四幕、御三家の幕引
「それとこれとは話は別」


 自分勝手な、と鹿島くんが顔をしかめる横で「職員室前で鹿島と話してたら、鶴羽から鹿島宛にLIMEがきてね」と松隆くんは説明を続けた。


「屋上に向かうっていうから、一体何事だろうって話になったんだけど」

「屋上、しかもよりによって第六校舎《ここ》の屋上を選んでいるとなれば、目的は一つしかない。もともと、樹が君のことを殺したいほど恨んでたのだけは知ってたしね」

「そうなると本当は生徒会室で鶴羽を押さえなきゃいけなかった。でも、屋上まで行かれたらどうしようもない。俺達が入った瞬間、鶴羽はお前を突き落とすだろうからな」


 確かに、屋上まで来れば、鶴羽は私を突き落としさえすればいいだけになる。屋上の扉が閉まっている以上、誰かが来れば必ず鶴羽は気が付く。扉からの距離は、順に鶴羽、私なのだから、屋上に来ても、鶴羽が私を落とすより早く、鶴羽に近付くことはできない。

 そうなったとき、鹿島くんだけは鶴羽に怪しまれずに近付くことができる。私の推理のとおりだというように、松隆くんは頷いた。


「だから鹿島に行かせたんだ。正直、鹿島のことは信用してなかったけど、鶴羽が鹿島の到着を待つとも思えないからとにかく時間がなかった。もう鹿島に賭けるしかない……ってなってたんだけど、さて、信用した甲斐はあったのかな?」

「とんだ言い草だな、失礼な」


 危うく死ぬところだったよね? 言外にそう詰問する松隆くんに、鹿島くんは心底心外そうな顔をした。


「焦ったのは俺だって同じだ。俺が最初に樹を止めたときに出てくればよかっただろ」


 どういうことか分からず、二人を交互に見ていると「鶴羽を止めるタイミングの話だよ」と桐椰くんが教えてくれた。


「鶴羽、ナイフ持ってただろ。あれも誤算……てか、鹿島を行かせるしかなかった理由の一つだったんだよ。下手な止め方すると、お前が刺されるかもしれねーから」

「樹がナイフを持ってる可能性はここに来るまでに話してはいたけど、そんなことが分かってもどうしようもなかった。それで結局、土壇場で樹を止めるしかないなって話になったんだけど、ね……」

「胸倉掴まれてないで、鶴羽を桜坂から少しでも離せばよかったのに」

「もしかして胸倉掴まれたことないのか? 胸倉掴まれながら移動なんて器用なことできないからな?」


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