第四幕、御三家の幕引
 土壇場だけ結託した二人が始めた睨み合いは、「チッ」という鶴羽の大きな舌打ちで遮られた。


「……結局お前かよ。最後の最後に邪魔しやがって」

「……やめようって散々言っただろ。それなのにお前が聞かないから」

「……そうだな。お前が幕張(コイツ)を好きになったときに、お前を信用するのはやめとけばよかった」


 ドキリと心が跳ね、反射的に鹿島くんを見てしまったけれど、鹿島くんは鼻で笑った。


「別に、俺は桜坂を好きじゃないさ」


 それはそれで失礼な話だ──。そう憎まれ口を叩きたかったけれど、鹿島くんの“好きじゃない”は、そんな軽い言い方ではなかった。私達が口にする“好き”と“好きじゃない”とは、まったく重みが違って聞こえた。

 そのせいか、心臓は少しだけドキドキした。


「は……だったらなんで助けたんだよ」

「……幕張に借りがあったから」


 立てた膝に腕を投げ出し、ふぅー、と息を吐きだしながら、鹿島くんは瞑目した。私は瞠目(どうもく)する。


「借り……って?」

「……幕張匠だった君に、俺は一度だけ助けてもらった」

「……え?」


 見開いていた目を、益々(ますます)見開いてしまった。そんな記憶はないし、なんなら、鶴羽の怪我がどうとかいうよりも身に覚えのない話だ。

 同時に、隣の桐椰くんが驚いた気配も伝わってきた。ただ、桐椰くんが驚いたのは、きっと「幕張匠に借りがあったこと」ではない。

 でも、それは今ここで話すことではない。桐椰くんもそれは分かっているので、口を挟んだりはしない。


「嘘、違う。逆だよ。鶴羽くんから聞いたでしょ、私は鹿島くんを──」

「そう、君は勘違いしてるんだろうなと思ってた」

「何言ってんだよ」


 鶴羽樹が口を挟む。今にも鹿島くんに飛び掛かろうと立ち上がるのを、松隆くんが容赦なく足で踏みつけ止めた。呻き声と共に鶴羽は(うずくま)り、それでもなんとか口を開く。


「あの日、俺達が──俺がアイツらにやられたのは、なんでだと思ってる……話しただろ、俺が怪我してたからだよ、でもって怪我してたのは幕張にやられてたからだ。それなのに借りもなにもない!」

「その前だよ、俺が幕張に助けられたのは」

「……いつ」

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