第四幕、御三家の幕引
「……海咲が死ぬ前の日の、放課後だったな。なんとなく立ち寄った場所が悪くて、カツアゲついでに集団リンチに遭ったんだ」


 中学生が一人、襲われていた場所……。ぼんやりと、それらしい光景を頭の中に思い出そうとするけれど、いまいち形にならない。


「……それ、一体、どこ……?」

「どこにでもある廃ビルだよ……細い路地に面してて、路地に面してる側に外れかけの外階段がついてたな。場所は…………高祢市……いや、朝木市かな。正確にどっちかは分からないから、丁度境目だろう」


 記憶を探りながら、鹿島くんが少しずつ(つむ)いだ場所──その場所を、私は知っていた。

 でも、その場所は。


「……路地から見て右側が駐車場と倉庫になってた場所か?」

「……ああ、そうだった。なんだ、お前も知ってるのか、桐椰」


 その場所は、私が、桐椰くんに会った場所じゃないの?

『高祢市と朝木市の境にある廃ビル。細い路地に面してる側に外階段がついてるヤツ』

『そこで俺に会ってないの、お前は』

 そんな偶然が、あるのだろうか。ぎゅっと、手を握りしめたままの私の隣で、桐椰くんも拳を握りしめているのが、視界の隅に見えている。ただ、その表情までは分からない。


「……あそこは、海咲の病院の近く、通り道だったんだ。そこの階段に座り込んでたんだけどね……。有名な不良の溜まり場だったんだろ、あそこは? しばらくしたら何人も高校生が来て、まあ有体にいえば襲われたんだ。……それを、目が合ったなんて理由で、君が助けてくれたんだよ」

『うわー、カワイソ』

 ……あの日、あの場所に目を向けた雅は、そう呟いていた。

 雅に言われて顔を上げた私は、雅が顎で示した方向を見た。両腕で頭を庇いながら、四、五人の中学生か高校生かに蹴られている人がいた。中高生の(かたまり)に隠れてしまうくらいだから、被害者もきっと同じ中高生なんだろう。思わず立ち止まった私を、雅は振り返って笑った。『なに、助ける? お前ってやっぱ捨て犬見捨てられない系?』とかつての自分を重ねるように付け加えて。そう言われると途端に──もちろん元々助ける気があったわけではなかったけれど──助けてやるもんか、なんて意地を張りたくなって。そう口にしようとした──。

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