第四幕、御三家の幕引
考えるだけでも寒気が走る。大体、散々嫌がらせをしておいて好きだなんて、以前月影くんか誰かにも話したけど、愛情表現が歪み過ぎて無理だ。ぶるっと震えた肩を抱くようにして大浴場へ急いだ。
脱衣場にはふーちゃんの姿はなく、その代わりになんとなく見覚えのある顔があった。多分他のクラスの女子だろう。八橋さんは見つからなかったので少し安心して、てきぱきと服を脱ぐ。眼鏡を外すと視界がぼやけてしまってなんとなく心許ない。
でも湯舟に浸かってしまえば困ることもない。大自然の旅館に泊まっているわけでもないので、見れずに残念に思う景色もない。何より、家で湯舟に浸かるのと違って寛ぐことができるのがいい。
「あーきー」
すっかり気を緩めきっていると、誰かが浴槽内で寄ってきた。顔が見えないのと髪型が違うのとで一瞬分からなかったけれど、ふーちゃんだ。どうせ私に話しかける人はふーちゃんしかいないので、名前を呼ばれた瞬間にふーちゃんだ。
「遅かったねー。電話の相手、鹿島くん?」
「……うんまぁ」
「まぁそうだよねー、一応付き合ってはいるもんねー」
「御三家ほどじゃないにしろ鹿島くんもモテモテだから、いつ背後から刺されるか不安だけどね!」
探るように“一応”を強調されたので、慌てて誤魔化した。
「確かにー。そういえば夏苗も鹿島くん好きっぽいもんねー、いま部屋同じだから修羅場だねー」
──つもりが、地雷を踏み抜いた。“夏苗”とは八橋さんの名前だ。やはりふーちゃんも体育祭の借り物競争のことを覚えていたか……。
「夏苗に何か言われたの?」
「まさか……いやまさかって言うのも変だけど……」
「まー、言わないよねー。夏苗、そういうタイプじゃなさそうだもん」
熱くなったのか、ふーちゃんは浴槽の淵に座り直す。その肢体を晒すことに躊躇はないらしい。確かに思わず見たくなる美肌だけども!
「八橋さんとは仲良いの?」
「んーん、去年同じクラスだっただけだよ。時々外の付き合いで見かけることもあるけど」
「外の付き合い」
「夏苗のお祖父さんはあれなんだよー、よくデパ地下に並んでるパティスリー八橋の創業者」
出た、お嬢様お坊ちゃま同士のお付き合い。最早慣れ過ぎて驚くこともできない。
脱衣場にはふーちゃんの姿はなく、その代わりになんとなく見覚えのある顔があった。多分他のクラスの女子だろう。八橋さんは見つからなかったので少し安心して、てきぱきと服を脱ぐ。眼鏡を外すと視界がぼやけてしまってなんとなく心許ない。
でも湯舟に浸かってしまえば困ることもない。大自然の旅館に泊まっているわけでもないので、見れずに残念に思う景色もない。何より、家で湯舟に浸かるのと違って寛ぐことができるのがいい。
「あーきー」
すっかり気を緩めきっていると、誰かが浴槽内で寄ってきた。顔が見えないのと髪型が違うのとで一瞬分からなかったけれど、ふーちゃんだ。どうせ私に話しかける人はふーちゃんしかいないので、名前を呼ばれた瞬間にふーちゃんだ。
「遅かったねー。電話の相手、鹿島くん?」
「……うんまぁ」
「まぁそうだよねー、一応付き合ってはいるもんねー」
「御三家ほどじゃないにしろ鹿島くんもモテモテだから、いつ背後から刺されるか不安だけどね!」
探るように“一応”を強調されたので、慌てて誤魔化した。
「確かにー。そういえば夏苗も鹿島くん好きっぽいもんねー、いま部屋同じだから修羅場だねー」
──つもりが、地雷を踏み抜いた。“夏苗”とは八橋さんの名前だ。やはりふーちゃんも体育祭の借り物競争のことを覚えていたか……。
「夏苗に何か言われたの?」
「まさか……いやまさかって言うのも変だけど……」
「まー、言わないよねー。夏苗、そういうタイプじゃなさそうだもん」
熱くなったのか、ふーちゃんは浴槽の淵に座り直す。その肢体を晒すことに躊躇はないらしい。確かに思わず見たくなる美肌だけども!
「八橋さんとは仲良いの?」
「んーん、去年同じクラスだっただけだよ。時々外の付き合いで見かけることもあるけど」
「外の付き合い」
「夏苗のお祖父さんはあれなんだよー、よくデパ地下に並んでるパティスリー八橋の創業者」
出た、お嬢様お坊ちゃま同士のお付き合い。最早慣れ過ぎて驚くこともできない。