第四幕、御三家の幕引
「ああ。それで、あの日、俺を助けてくれたのが幕張だったって分かった。だから……君が生きてても死んでもどうでもいいと思ってたけど、あの時のお返しにね、樹のやってることを傍観するのはやめることにした。それだけだ」
「……でも、私が、鶴羽くんの腕を……」
「そんなのは、ただの因果応報だよ」
「お前!」
咳込みながら怒鳴った鶴羽を、鹿島くんは一瞥した。でも、それだけだ。それが余計に鶴羽の神経を逆撫でしたらしく「ふざけんな……ふざけんなっ……!」と声を絞り出す度に、その髪の毛が怒りで逆立っているようにさえ見えた。
「誰の許嫁だったと──海咲が誰を好きだったと思ってる!? お前だって好きだったんだろ!? お前の好きはその程度かよ!?」
「おい鶴羽、暴れんな」
「テメェは関係ない黙ってろ! おい明貴人! お前はやっぱり海咲じゃなくて幕張を──」
「……本当に、そうじゃないよ」
その答えは、あまりにも静かすぎて、鹿島くんの声だったのか、一瞬確信が持てなかった。辛うじて、続いて鹿島くんの口が動いたことが、鹿島くんの声であることの証明だった。
「……あの日、手術の前の日、海咲に言われた。私は、いつまで、あなたの想い出の中にいられるかな、って。……違うんだ」
額に手を当てたまま、鹿島くんは弱々しく続けた。
「忘れるなんて、ない。そんなんじゃない。想い出の中からいなくなるなんて、俺にとっての海咲は、そんなんじゃない。……想い出になんか、ならない。俺にとってはずっと、今なんだ。俺は今でもずっと、海咲だけが好きなんだ」
その“好き”は、ありふれた台詞なのに、あまりにも、ずしりと重く、圧し掛かった。
それなのに、幾度となく囁いてきたかのような、当たり前のような、鹿島くんにとっての常識のように聞こえた。
今でもすべてなんだ、と言っているように、聞こえた。
「……もちろん、海咲が死んで……納得はできなかった。最後の最後に会えなかったのは本当だし、樹が正しいとさえ思った。ずっと、樹のいうとおりかもしれないと思ってた」
「だったら!」
「でも、今はお前が正しいなんて思ってないよ」
鶴羽の泣き叫ぶような声より、鹿島くんの静かな声のほうが、泣きそうに聞こえた。
「……分かんねぇよ」
「……でも、私が、鶴羽くんの腕を……」
「そんなのは、ただの因果応報だよ」
「お前!」
咳込みながら怒鳴った鶴羽を、鹿島くんは一瞥した。でも、それだけだ。それが余計に鶴羽の神経を逆撫でしたらしく「ふざけんな……ふざけんなっ……!」と声を絞り出す度に、その髪の毛が怒りで逆立っているようにさえ見えた。
「誰の許嫁だったと──海咲が誰を好きだったと思ってる!? お前だって好きだったんだろ!? お前の好きはその程度かよ!?」
「おい鶴羽、暴れんな」
「テメェは関係ない黙ってろ! おい明貴人! お前はやっぱり海咲じゃなくて幕張を──」
「……本当に、そうじゃないよ」
その答えは、あまりにも静かすぎて、鹿島くんの声だったのか、一瞬確信が持てなかった。辛うじて、続いて鹿島くんの口が動いたことが、鹿島くんの声であることの証明だった。
「……あの日、手術の前の日、海咲に言われた。私は、いつまで、あなたの想い出の中にいられるかな、って。……違うんだ」
額に手を当てたまま、鹿島くんは弱々しく続けた。
「忘れるなんて、ない。そんなんじゃない。想い出の中からいなくなるなんて、俺にとっての海咲は、そんなんじゃない。……想い出になんか、ならない。俺にとってはずっと、今なんだ。俺は今でもずっと、海咲だけが好きなんだ」
その“好き”は、ありふれた台詞なのに、あまりにも、ずしりと重く、圧し掛かった。
それなのに、幾度となく囁いてきたかのような、当たり前のような、鹿島くんにとっての常識のように聞こえた。
今でもすべてなんだ、と言っているように、聞こえた。
「……もちろん、海咲が死んで……納得はできなかった。最後の最後に会えなかったのは本当だし、樹が正しいとさえ思った。ずっと、樹のいうとおりかもしれないと思ってた」
「だったら!」
「でも、今はお前が正しいなんて思ってないよ」
鶴羽の泣き叫ぶような声より、鹿島くんの静かな声のほうが、泣きそうに聞こえた。
「……分かんねぇよ」