第四幕、御三家の幕引
 それでも、先に泣き出したのは鶴羽樹だった。


「なんで、そんな風に納得できるんだよ。あの日、お前が来なくて、海咲は心細かったのかもしれない。お前にさえ見放されたって思ったのかもしれない。そのせいで手術は上手くいかなかったのかもしれない。……そんなことを、何で納得できるんだよ……」

「……多分、いまも納得はできてない。俺は……今でも、なんで海咲が死ななきゃいけなかったんだろうって思ってる」

「……違うだろ。本当にそう思ってるなら、助けてもらったなんて理由で幕張を助けたりしない」

「……そうだな。もしかしたら、俺が桜坂を助けようと思った理由は、そんなことじゃなかったのかもしれない」

「……やっぱり浮気じゃねーか」

「浮気じゃあない。俺は桜坂を好きじゃない。それは、本当だ」


 鶴羽樹に言い聞かせるように、ゆっくりと繰り返して。


「……ごめんな、樹」


 そして、まるで別れの言葉のように、謝罪を零した。

 子供のように、静かに涙を流していた鶴羽樹の顔がくしゃっと(ゆが)んだ。


「……なにが」

「お前が海咲を好きなんだって、なんとなく分かってた」

「……別に、お前に()られたって思ったことなんかねーよ」

「そういう話じゃない。……海咲が死んで、死ぬほど悲しかったのは、俺だけじゃなかったって……俺と同じだけお前も悲しいんだって、俺は分かってた」

「…………」

「あの時、お前と一緒にいればよかった。それぞれ呆然としてないで、お前と一緒に海咲を(いた)んでいればよかった。そうすれば、久しぶりに会ったお前が、復讐しようなんて言い始めたりはしなかった。そうだろ」


 それはまるで、御三家と自分達を対比しているようだった。あの後も、お互い変わらずにいることができれば、せめてもう一度昔の関係に戻ることができていれば、こんなことにはならなかったのに、と。


「……そんなたられば、意味なんてない」

「……だったら、こんなことする意味もなかっただろ」

「……さあな」


 でも、鶴羽くんの態度は、何の話をされているのか分かりませんと言わんばかりの冷たいもので。


「お前がどうかは知らないけど、俺はただ、ずっと、幕張と桐椰達を許せなかったし、今だって、死んじまえばいいって思ってるだけだよ」


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