第四幕、御三家の幕引
二人が唯一通じ合ったのは、互いの言葉が届くことはないということだけだった。
話は終わりだとばかりに、鶴羽樹は鹿島くんから顔ごと視線を背け、代わりに松隆くんを振り返って、扉のほうを顎で示した。
「……おい、どうせ警察かなんかに突き出すんだろ。いい加減連れて行けよ」
「あ、そ。じゃ、とりあえず警備員に渡そうか。駿哉、付き合ってよ」
「ああ」
両腕を背後で縛られたまま、のろのろと立ち上がった鶴羽は、すれ違いざま、私に向かって舌打ちをした。今だって死んでしまえばいいと思ってる、その台詞のとおりの態度だった。鹿島くんにはやはり顔も向けない。
「樹」
それを、鹿島くんが呼び止める。松隆くんと月影くんが立ち止まったから、鶴羽樹も仕方なく立ち止まった。
「俺だって納得はしてない。ただ……ただ、桜坂が話すのを聞いて、分かっただけだよ」
「……私が?」
「ああ」
鹿島くんにそんな話をした覚えはない──そう思っていたけれど。
「……雨柳の命日の前後、桐椰が生徒会室でぐずってたとき」
桐椰くんに話していたことだと言われれば、すぐに分かった。
「桐椰が、自分が雨柳を殺したんだって、泣いていたときの話だ」
こつん、と鹿島くんは背後のコンクリートに頭を預けた。
「俺も、同じだった──同じだったんだって、気付いた。俺はあの日、言えなかったんだ……いつまで想い出の中にいられるかなって言われたとき、どうにか励まそうと下手な言い訳ばかりを並べて……“好き”とたった一言を、目を閉じる前の海咲に、言えなかった」
ヒュウッ、と、鹿島くんの喉が、苦しそうに息を吸い込んだ。同時に、その手に隠れた目元から、一筋の涙が落ちる。
「きっと、海咲に俺の“好き”は届かなかった。あんなに好きだったのに、ずっと、言えなかった。心細い病床で、許嫁に、たった一言の“好き”も言われない海咲の気持ちはどんなだったろうって、想像するたびに辛かった。独りで病院にいる、その寂しさから救えなかった自分を赦せなかった。……海咲が死んでしまったことを、誰かのせいにしないと、俺のせいにしか思えなかった」
初めて聞いた鹿島くんの“本当”は、どこか桐椰くんの“贖罪”に似ていて。
話は終わりだとばかりに、鶴羽樹は鹿島くんから顔ごと視線を背け、代わりに松隆くんを振り返って、扉のほうを顎で示した。
「……おい、どうせ警察かなんかに突き出すんだろ。いい加減連れて行けよ」
「あ、そ。じゃ、とりあえず警備員に渡そうか。駿哉、付き合ってよ」
「ああ」
両腕を背後で縛られたまま、のろのろと立ち上がった鶴羽は、すれ違いざま、私に向かって舌打ちをした。今だって死んでしまえばいいと思ってる、その台詞のとおりの態度だった。鹿島くんにはやはり顔も向けない。
「樹」
それを、鹿島くんが呼び止める。松隆くんと月影くんが立ち止まったから、鶴羽樹も仕方なく立ち止まった。
「俺だって納得はしてない。ただ……ただ、桜坂が話すのを聞いて、分かっただけだよ」
「……私が?」
「ああ」
鹿島くんにそんな話をした覚えはない──そう思っていたけれど。
「……雨柳の命日の前後、桐椰が生徒会室でぐずってたとき」
桐椰くんに話していたことだと言われれば、すぐに分かった。
「桐椰が、自分が雨柳を殺したんだって、泣いていたときの話だ」
こつん、と鹿島くんは背後のコンクリートに頭を預けた。
「俺も、同じだった──同じだったんだって、気付いた。俺はあの日、言えなかったんだ……いつまで想い出の中にいられるかなって言われたとき、どうにか励まそうと下手な言い訳ばかりを並べて……“好き”とたった一言を、目を閉じる前の海咲に、言えなかった」
ヒュウッ、と、鹿島くんの喉が、苦しそうに息を吸い込んだ。同時に、その手に隠れた目元から、一筋の涙が落ちる。
「きっと、海咲に俺の“好き”は届かなかった。あんなに好きだったのに、ずっと、言えなかった。心細い病床で、許嫁に、たった一言の“好き”も言われない海咲の気持ちはどんなだったろうって、想像するたびに辛かった。独りで病院にいる、その寂しさから救えなかった自分を赦せなかった。……海咲が死んでしまったことを、誰かのせいにしないと、俺のせいにしか思えなかった」
初めて聞いた鹿島くんの“本当”は、どこか桐椰くんの“贖罪”に似ていて。