第四幕、御三家の幕引

(四)掌上に踊っていた鍵

「鹿島くん、やっほー」


 生徒会室に入ると、鹿島くんの不愉快そうな顔に迎えられた。


「もう来る必要はないよな?」

「ないけど、ほら、急に誰も来なくなったら寂しいんじゃないかなって」

「そういうおどけた話は桐椰にだけしてろ」

「あと、今日卒業式だったから、しばらく会わなくなっちゃうでしょ? やっぱり寂しいんじゃないかなって」

「そういうおどけた話は、以下略だ。……怪我は治ったのか」


 私の首と手を見ながら、鹿島くんはほんの少しだけ心配するような素振りをみせた。鹿島くんのせいだとは思ってないので「あーそうだねー」と曖昧な返事をする。


「意外と深くはなかったみたい。手のほうは痕が残るらしいんだけど、首のほうはただの切傷って感じで治るってさ」

「よかったな」

「鹿島くんは二枚目が台無しだね」

「年齢を疑いたくなる語彙はやめてくれないか」


 鹿島くんの右頬の上には、まだガーゼが貼ってある。一緒に病院に行ったから聞いてしまったけど、鹿島くんの頬には傷痕が残るらしい。あの日、かなり至近距離でナイフを振り回されていたし、ダラダラと血も流れていたし、相当深い傷なんじゃないかとは思っていたけど、どうやら予想どおりだったらしい。


「まあ、俺は男だから別にいい。樹への慰謝料とでも思っとくよ」

「そっかー……」


 沈黙が落ちた。悪態を吐かないと、私達には会話がない。


「やっぱり、君の彼氏なんて、俺にはやってられないな」


 多分、鹿島くんも同じことを思ったのだろう。そうだね、なんて頷く必要もないくらい、私達には自明のことだった。


「そういえば、鶴羽くん元気?」

「さあ、知らないな」


 鶴羽くんは、あの日の次の日に傷害罪で逮捕された。半田先輩が受験を終えた後に被害届を出していたらしく、逮捕の原因はその件だそうだ。半田先輩が鶴羽くんに殴られた後、仕事帰りのサラリーマンが通りがかったらしく、その人が鶴羽くんともう一人が逃げるのを目撃していたらしい。その人が救急車を呼んでくれたらしく、その通報時刻から犯行時刻が容易に判明して、その時間帯のコンビニや駅の防犯カメラから犯人を割り出した、と。警察って優秀だなあ、なんて小学生のような感想を抱いた。
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