第四幕、御三家の幕引
 咀嚼(そしゃく)するには少し時間がかかりそうで、うんともそうだねとも相槌を打つことはできなかった。鹿島くんも、聞かれたから答えただけで、特に感想も意見も求めちゃいない、といわんばかりの態度だった。


「で、いつまでここにいるつもりだ。このとおり忙しいんだが」

「なんで忙しいの? 終業式まで終わってもうみんな春休み気分だよ?」

「年度末だからだよ。そして春休み気分のヤツが視界にちらつくのは鬱陶しい」

「最後の最後まで酷いこと言うじゃん。私のこと嫌いなの?」

「嫌いとまでは言わないが鬱陶しい、何回も言わせるな。……ああそうだ」


 鹿島くんの机の上に鎮座(ちんざ)している紙袋に気付いて視線を向けると、鹿島くんの手がそれをひょいと取り上げて私に放り投げた。「わっ!?」と間抜けな声を上げながらも受け止めた私、ナイスキャッチ。


「なにこれ?」

「ホワイトデーのお返しだ」

「あ、そんな話もあったね? ちょっと過ぎたけど。っていうか、鹿島くんのバレンタインは結局鹿島くんが自分で買ってるじゃん」


 お返しも何もある? 怪訝な顔をしてしまったし、中身は行列ができるほど有名なケーキ屋さんの焼き菓子だと気付いて仰天してしまった。オンラインショップで取り寄せればもちろん簡単に買えるけど、チェーン展開されてるデパートや店舗よりは手間のかかるお返しだ。


「え、なにこれ。なんでこんないいものくれるの?」

「ただの餞別(せんべつ)だよ」


 もう別れたから──“餞別”にの含意が、そんな理由だけとは思えなかった。

 鹿島くんのことは、別に、全然好きじゃない。そんな名前がつく感情じゃないことははっきりと言える。それでも……そういう言い方をされると、ちょっとだけ寂しいのも事実だ。

 ただ、鹿島くん相手にはそれこそ死んでも言いたくないので、「ふーん、ふーん」と平静を装ってみせる。


「キスの慰謝料とかも込みなのかな、それなら納得だなー」

「ああ、まだ樹に協力してた頃だな。悪ぶるためとはいえ、まあ悪かったな」

「もっと悪びれてくれませんか? 全然悪いと思ってるように聞こえないんですけど?」


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