第四幕、御三家の幕引
 待てよ、と考え込んだ。鹿島くんは鶴羽くんへの協力の一環として私にキスしたことがあったわけだけど……。桐椰くんが透冶くんの件で泣いていた日の後に、もう一回生徒会室でキスされたんだよな……。

 記憶を探っていると、鹿島くんの話の辻褄(つじつま)が合わないような気がしてしまった。


「……桐椰くんと、透冶くんの話をした後のことだけど」

「俺にとってはこの間話した通り感情も何もないキスだったんだが、君にとっては忘れられないキスになったようで申し訳ないな」

「違います! 私だってなんとも思ってません! もう帰ります!」


 いつかのように誤魔化されたような、いつもの鹿島くんであるような、どちらなのか分からなくなってしまったし、あんまり続けたい話題でもなかったので、ぷんぷんと憤慨しながら今度こそ(きびす)を返した。やっぱり鹿島くんは痴漢だ。


「……最後にひとつ」


 それなのに、なんやかんやと引き留める。本当は私と喋りたいんじゃないのかな、なんて半分本気で思いながら振り返ると、鹿島くんは少し考え込んでいた。最後に、と引き留めたくせに、その最後の話を考えている途中だなんて、やっぱり寂しいんじゃないのかな。


「……なに?」

「……樹に突き落とされそうになる前、君は言ったな。ずっと死にたかった、って。樹に殺されるとしても、こういう形で死ぬんだなって思ってるだけだって」


 あまりにも唐突な話題のせいで、いつも以上に鹿島くんの意図は読めなかった。


「……うん」


 確かに言ったけど、それが何か? 首を傾げてみると、はぁ、と声が聞こえてきそうなほど深い溜息を吐かれた。それは呆れではなく、どこかやるせない怒りが混ざったような、そんな溜息だった。


「……君は今でも、君がどんな痛い目に遭おうが、それで御三家に何の手出しもされないなら万々歳だとか、君が死のうが殺されようが周りには何の関係もないって、そんな自分本位なことを思ってるのか?」


 ……私が今でもそう思っているかどうかは別として、それが“自分本位”と形容されるとは思わなかった。お陰で、肯定も否定もできずに押し黙る。

 多分、それは、一般的にいうなら“自己犠牲”だ。身勝手だとか、我儘だとか、そんな説教じみたニュアンスで形容されることじゃない。

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