第四幕、御三家の幕引
「そういえばそうだな」


 今考えると、俺達にそこまで深読みさせて撹乱(かくらん)したかっただけなのか? と桐椰くんは首を捻った。そうかもね、と松隆くんも首肯する。


「いずれにせよ、半田先輩が遼につっかかる性格じゃなくてよかったよね。結局、遼に似てるから襲われた云々(うんぬん)の噂も立ち消えたよね?」

「そうだな。せいぜい、遼を襲おうと画策するなど許せんという者がいたくらいだな」

「人望ありすぎでは? さすが副会長!」

「馬鹿にしてんだろ」

「ところで話は変わるけど」

「うん」

「桜坂が幕張だったって話、詳しく聞いていいかな」

「ぶっ」


 思わず紅茶を吹いてしまった。月影くんに睨まれたし、松隆くんにも顔をしかめられ、桐椰くんが呆れ顔でタオルを持ってきた。机に被害はなかったけど、制服のスカートに紅茶が零れてしまった……しかも牛乳入り。最後の最後にとんだ失態だ。


「えーっと……」


 ばたばたしてすっかり忘れていた。鶴羽くんに屋上から落とされそうになった日は、松隆くんと月影くんが「不法侵入をしてました」と警備員に鶴羽くんを突き出して、私と鹿島くんは仲良く病院に行ってそのまま帰宅。その次の日は、桐椰くん達には「怪我は大丈夫か」「だから鹿島に会いに行くのはいい加減にやめろって言ったよね」と怒られ、鶴羽が逮捕されたらしいなんて松隆くんに聞かされびっくりして、その後は終業式に向けた学校行事や怒涛のテスト返却にも追われ……、ゆっくり話をする時間はないままだった。


「なにから……話せば……?」

「こうなるから早く話しておけと」

「待って、駿哉は知ってたの?」


 寝耳に水なんだけど、と責めるような口調の松隆くんに対して、月影くんは「知っていたが」と相変わらず飄々(ひょうひょう)としている。


「なんでさも当然みたいな顔してんだよ。いつから知ってんだ」

「桜坂が菊池と共に拉致された日からだな」

「夏の話じゃねーか! なんで今まで黙ってたんだ!」

「言う必要がなかったからだな」

「あるだろ! 多分!」

「なんで知ってたの?」

「菊池が幕張匠の居場所を教えるか桜坂を人質として差し出すか、二択を迫られたと聞いた時点で分かる。幕張の居場所を教えられないのは桜坂が幕張だからだろう」

「……いや、普通に居場所が分からないとかあるだろ」

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