第四幕、御三家の幕引
 鼻の奥がツンとしたけれど、桐椰くんが気付かず「つか、実は幕張でしたってなんだよ。マジで早く言えよ」と話題を変えてくれたので助かった。


「だってー。言ってるじゃん、松隆くんと桐椰くんがどう思ってるかなんて知らなかったもん。っていうか、鹿島くんと会った場所が、桐椰くんと優実の会った場所だったなんてびっくりしちゃった」


 早口で捲し立ててしまったせいで、桐椰くんの表情が一瞬変わった。


「まあ、そうだな……」

「私、あれって──あの時に助けたのって、桐椰くんだったのかなーって思ってたんだ。ほら、松隆くんが桐椰くんと一緒に襲われて私に助けられたんだって話してたし。それにしては二人じゃなくて一人だけだった気がするけど、ってくらいで」

「お前が総に会ったのは別の場所だな……。鹿島が言ってた場所は、俺がお前の妹に会った場所だし、全然別のとき。……多分、俺は幕張だったお前の顔は見てないと思う」

「そうなの?」

「多分、お前が来たときはもう気絶してた」


 少しだけみっともなさそうな、拗ねたような口調だった。まあそうか、当時中学生とはいえ、私は女子で桐椰くんは男子だもんな。


「じゃあ松隆くんが教えてくれたの? 幕張が助けてくれたよって」

「ああ……気づいたら病院にいたし。総から、幕張とその相棒が来たから助かったって聞いた。正確には、幕張が来たから総が兄貴に電話できて、兄貴が駆け付けて助かったとか……」

「あー! 彼方に会ったあのとき!」


 突然心当たりのある事件が頭に浮かんで大きな声が出た。桐椰くんは鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしている。でも間違いない。


「そうだ、絶対そうだ! 彼方に言われたもん、助けてくれてありがとうって! 後から来た彼方がそう言うってことは子分だったのかなって思ったんだけど、あれ桐椰くんだったんだ!」

「……お前……」

「っていうか、彼方すごいよね。誰も気づかなかったのに、私が女の子だって気付いたんだよ? すごいっていうか怖くない? あの女好き嗅覚すごい」


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