第四幕、御三家の幕引
「先に言うんじゃねーよ言いづらいな!!」

「痛い!」


 袖口で口もとを隠しながら顔を(のぞ)きこむと叩かれた。すれ違ったおばさんに不可解な目で見られた。桐椰くんってば仕方がないな。


「少しからかわないと言いやすい雰囲気にならないかなって……」

「逆に言いづらいって言ってんだろ!」

「じゃあ黙ってたら言いやすい? はい!」

「…………」

「…………」

「……お前本当にいい加減にしろよ」


 黙って覗きこんでても怒られた。桐椰くんの顔は真っ赤だし拳は震えてるし、そろそろもう一度殴られそうだ。


「……ちょっとこっち来い」

「おっとっと」


 と思っていたら、帰り道を()れて、雑多なお店が並んだ道を少し歩き、小さな公園前まで連れて行かれた。

 大したお礼じゃないし、道端で済ませればよかったのに。なんて私は思ったけれど、桐椰くんの顔は真っ赤なので、大したお礼じゃないことはないらしい。いや、お礼の話が続いているのかは知らないけれど、少なくとも大した話らしい。お陰で私も貰い赤面だ。


「……あの」

「……改まって言うと恥ずかしいんだけど」

「……はい」


 まるで告白でもされるみたいだ──と頭に浮かんでしまったせいで、ドキッと心臓が跳ねた。最近の私の心臓は跳ねてばかりだ。寿命が二年分くらい縮んだ気がする。

 いや、告白じゃない。もう桐椰くんには告白されている。……いや、そんな確信の持ち方をするのは間違っているかもしれないけど、この流れで告白は違う。

 ドキドキドキドキと急に高鳴り始めた心臓が、まるで期待してるみたいで怖かった。思わずぎゅっと唇を引き結び、平然とした表情を保とうとする。でも目の前の桐椰くんが顔を真っ赤にしたまま「あー、あのな……」と言い(よど)むので、どうしようもなく恥ずかしい。


「……あのな」

「……うむ」

「……ありがとな、助けてくれて」

「……うむ!」


 お陰で、ふざけた返事しかできなかった。うむってなんだ、と自分でも思った。でも多分、桐椰くんもツッコミを入れるには平常心から程遠い。顔を赤くしたまま、ぐしゃぐしゃと髪をかきまぜて照れ隠しをしている。


「……本当は、もっと早く……お前が幕張だって聞いて、すぐ言おうと思ってたんだけど」

「……うん」

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