第四幕、御三家の幕引
 そしたら、桐椰くんに会うまでの二年間はもう少し違っていたかもしれない。

 でも、本当は、もっと早く、私が幕張匠になってしまうよりも早く、三人に会うことができていればよかった。そうすれば、私が幕張匠になる必要なんてなかった。

 そう思えてしまうってことは──鹿島くんのいうとおりだ──私にはもう、分かっていた。


「……いいだろ、結局会えたんだから」

「……うん。……でも、生徒会に虐められてなかったら──有希恵が虐められたのを庇ってなかったら、きっと桐椰くんと仲良くなることはなかったんだなって思うと、なんか不思議」

「……そうだな。多分、卒業まで話もしなかった気がする」

「って考えると、生徒会に感謝なのかな」

「……かもな」


 透冶くんが亡くなっていなかったら、御三家が下僕を探していなかったら、生徒会が私を虐めていなかったら、私と御三家は、交わることなく終わっていたのかもしれない。桐椰くんとさえ話すこともなく、お互いにクラスメイトの一人でしかなく、二年生を終え、高校生を終え、大学生を終えて……。そうして、私はただ静かに、死んでいたのだろう。

 どこかで一つ歯車が欠けていたら、私は変わらないままだった。


「……桐椰くん」

「ん?」

「……ありがとう」

「……なんだよ、急に」

「……あの日、鹿島くんが、言ってたでしょ。ずっと誰かに、自分のせいで海咲さんが死んだわけじゃないって言ってほしかったんだと思うって」


 “言ってほしかった”──それは、その言葉が、今まで鹿島くん自身に向けられることがなく、これからも向けられることはないという、寂しい台詞だった。

 一つ歯車が違えば、もしかしたら、鶴羽くんと鹿島くんは、そんな風に互いを(ゆる)すことができていたのかもしれない。でも、きっともうそんなことはもう起こらない。

 鹿島くんは、そんな孤独を抱えている。透冶くんを亡くした後の御三家とは違って。


「でも、私は、きっとそうじゃないから。桐椰くん達がいてくれるから……ずっと誰かに言ってほしかった、なんて寂しい思いはしないで済むんだろうね」


 こんな風に言われなくたって、君にはもう、分かっていただろう──何度も何度も、鹿島くんのあの言葉を反芻(はんすう)する。その度に胸が苦しくなる。

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