第四幕、御三家の幕引
「お風呂上り! 浴衣! エロい!!」

「閉めるよ」

「まぁまぁ王子様、そう怒らないでよー。褒めてるんだよー?」


 冷ややかな松隆くんの声に構わず、ふーちゃんは私の腕を引いてエレベーターに乗り込んだ。松隆くんと桐椰くんが「そろそろセクハラで訴えていいと思うんだよね」「俺もそう思う」なんてぼそぼそ話しているけれど、確かに浴衣姿の三人は新鮮だ。

 お陰で、ほんの少し、背中が熱い気がした。


「そういえば遼、俺、明日からお前の部屋らしいんだよね」

「はぁ? なんでだよ」

「元々一人部屋だったでしょ、俺。で、遼と同じ部屋の人が急に欠席になったから」

「あぁ、そういう。面倒くせぇな」

「だから俺も一人部屋のままがいいとは言ったんだけどね。相手が遼じゃなかったら教師も同じ部屋に入れようとはしなかったんだろうけど」

「ねぇねぇ」


 二人はふーちゃんに格好のネタを与えてしまっていることに気付かなかったらしい。ふーちゃんの目は、その興奮が伝わってくるほどに更に輝いていた。


「それどういうこと? 公認のカップルってこと?」

「黙っててくれない? 薄野の前じゃ安心して事務連絡もできないんだけど」

「あたしの前でそういう話をするってことはそういう妄想していいってことなのかなーって」

「曲解にもほどがあるでしょ。早く出て行って」


 女子階のほうが男子階より下なので、エレベーターの扉が開いた瞬間、松隆くんは虫でも追い払うような手ぶりをした。ふーちゃんは懲りずに「激熱だなぁー」とうきうき呟くので、なぜか私のほうが申し訳なさそうにすごすごと出ていく羽目になる。


「というわけで、桐椰くんの部屋で修学旅行イベント起こすなら今日だよー。明日から王子様に邪魔されちゃう」


 そして御三家の耳がなくなれば私に白羽の矢が立つ。もう肩を落とすくらいしか私にはリアクションがとれない。


「だからイベントなんて起こらないって。誰がなんと言おうと今は鹿島くんの彼女だから!」

「二股もイベントのうちだよ?」

「さりげなくとんでもないこと言わないでよ!」

「あたしのオススメは先生の見回り時刻に桐椰くんの部屋の前で桐椰くんを呼び出して、先生の気配がした瞬間に桐椰くんの部屋に匿ってもらうルートかな」

「勝手にルートを作らないでください、そんなものないです」

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