第四幕、御三家の幕引
 あの言葉の後に続くのは、きっと、「あの三人に愛されていること」。私には、ずっと分からなかったこと。


「……ああ。お前が言ってほしい言葉なんて、俺達がいくらでも言ってやるよ」

『俺達は、ずっと、桜坂と一緒にいるよ』

 その台詞は、いつしか松隆くんが言ってくれた台詞に似ていて、笑ってしまった。笑った瞬間に、涙が出そうになった。


「だから、死んでいいとか、死にたいとか、二度と言うなよ」

「……聞いてたの」

「当たり前だろ。死ぬ気なんじゃないかと思って飛び出ようとして駿哉に止められた」

「はは」

「笑いごとじゃねーんだぞ」

「そうだけど、つい」


 笑って誤魔化さないと、泣いてしまいそうだったから。

 でも、誤魔化すことなんてできてなくて、視界がじんわりと滲んだ。それに気づいた桐椰くんはバツが悪そうに少し視線を泳がせ……、何かを誤魔化すように、指先で頬を(さす)る。


「……さっき、価値がどうとか言ってただろ」

「……うん」

「年明けも、愛される条件がどうだこうだって言ってた」

「……そうだね」


 私は、ずっと自分が生きてていい価値を探していた。


「俺がお前を好きな理由は、お前がお前だからだよ。条件もくそもない」


 ずっと、私が私であるだけで好きになってほしかった。


「お前の価値は、俺がお前を好きってだけで十分だろ」


 それは、叶わない願望とか、絵本の世界とか、少なくとも私の人生にはどこにもない理想なんだと思っていた。


「……桐椰くん」

「……なんだよ」


 苦しい胸から震える息が零れて、熱い目頭から涙が(あふ)れた。


「……好きです、桐椰くん」


 私は、ずっと。


「……知ってるよ」


 ずっと、誰かにそう言ってほしかったのかもしれない。
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