第四幕、御三家の幕引
 手持無沙汰に、空を見上げる。高く澄んだ空は、秋特有のものだ。そこへ浮かんだ黒い影が、ピィー、と甲高く鳴く。

 更に、ジャリ、と砂を踏みしめる音が聞こえる。コンクリート上の僅かな砂粒を、ゆっくりと踏みしめる足音。

 顔を向けると、懐かしい人影が見える。大きく手を振ると、気付いた相手も手を挙げた。


「……久しぶりだな」

「ねー、久しぶり。去年会ってないよね? 二年ぶりかな」

「そんくらいかも」

「……なんでこんなとこに立ってんの?」

「今、鹿島くんがお参りしてるから。一人にしてあげようかなーと思って」

「ああ、お前ら、一緒に来たの」

「あれ、鹿島くんが来てるってなんでわかったの」

「正面から入ったら、墓の前に鹿島がいたからさ。一緒に参るのは違うなと思ったから、外で時間潰すことにした」

「ああ、一緒だ」


 そこで、沈黙が落ちた。

 二年ぶりなので、話のネタはたっぷり二年分ある。まさしく掃いて捨てるほど。

 それなのに、口をついて出てこない。気まずい沈黙が段々と空気を重くしていくので、仕方なく頭を回転させて話題を探し──そうだ、ととっておきの話題を見つけた。


「司法試験受かったんだね。おめでとう」

「あー、ああ……。総から聞いたの?」

「うん。おめでとうって連絡しようかなと思ったんだけど、松隆くんから聞いたのを言うのも変かなって」

「別に、変じゃねーだろ」

「すごいよねえ。弁護士になるの?」

「今のところは」

「私が警察に捕まったら助けてね!」

「まず捕まるようなことすんじゃねーよ」


 少しだけ、桐椰くんは笑った。その様子にほっとして続ける。


「あと司法試験って法学部じゃなくても受けていいの? 月影くんも受かってるよね?」

「法学部じゃなくてもいい、けど、アイツは例によって特殊だよ」

「月影くんは弁護士なの? 医者なの? どっちなの?」

「司法試験受かったからって弁護士にならなきゃいけないわけじゃねーけど、まあそういうことは駿哉に聞けよ。アイツらにも会ってねーの?」

「会ってなーい。私がこっちに帰ってこないせいなんだけどね」


 また、沈黙が落ちた。

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