第四幕、御三家の幕引
 桐椰くんが少し困ったような顔をして──そのまま視線を動かしたので、鹿島くんが出てきたことが分かる。振り返ると、鹿島くんは私に向かって肩を竦めてみせた。邪魔したな、とでもいうように。


「もういいのか、鹿島」

「ああ。お先に失礼。……桐椰、どうやって来た?」

「ん、普通にバス乗り継いで」

「だったら、帰りは送ろうか? 俺は車だから」

「いいのか? お前、今から帰るんだろ?」

「どうせ桜坂を送るからな」


 忌々(いまいま)し気、とまでは言わずとも、限りなく面倒臭そうだ。桐椰くんは少し戸惑ったような表情をしたけれど「まあ、送ってくれるのはありがたいよ」と厚意を受け入れた。


「すぐだから、って言うのも変だけど、すぐだから」

「いいよ、もともと、君達がわざわざ墓参りする義理はないんだから」


 ひらひらと鹿島くんは手を振りながら私達に背を向ける。ポケットから電子タバコを取り出して握りしめているから、喫煙所を探しに行くんだろう。行こうか、と二人で顔を見合わせて、海咲さんのお墓へ歩き出す。


「……アイツ、煙草吸ってたっけ」

「うん、っていっても卒業する前後あたりからかな? 就活のストレスで吸い始めたって言ってた」

「確かに、総もそんなこと言ってたな。あの松隆グループの、って色眼鏡で見られるのが腹立つって」

「あれ、松隆くんは吸わないよね?」

「吸わないな。アイツ自身、煙草の臭い嫌いだし」


 少しずつ、会話のテンポを取り戻しながら、海咲さんのお墓の前に辿り着く。そこには、夏咲きのコスモスが供えられていた。鹿島くんだ。ただ、お線香の数をみれば、お参りにしたのは鹿島くんだけではないらしい。


「総と駿哉は午前中に来たって言ってた」

「あ、そうなんだ。一緒に行かなかったの?」

「予定合わなくてさ。アイツらに最後に会ったのいつ?」

「えーっと……いつだったかな。松隆くんのイケメン度合いの凄味が増したなって思ったから社会人になった後な気はするんだけど……」


< 433 / 463 >

この作品をシェア

pagetop