第四幕、御三家の幕引
 記憶を探っていて、思い出した。今年のゴールデンウィーク、意外と最近だ。松隆くんからは幼さが消え失せ、美形が一層磨かれたので驚いたのを覚えている。とはいえ、わりと予想通りの磨かれ方だったので、唖然とするほどではなかった。どちらかというと、激変したのは月影くんだ。高校生の間にめきめき身長が伸びてしまったのと、優等生風の雰囲気が少しなくなってしまったのと──あとは、すごく(ほが)らかに笑うようになったのとで、かなり印象が変わった。垢抜(あかぬ)けたというのは、ああいうのをいうのだろうか。でも口を開くと月影くんのままだった。

 ……桐椰くんは。隣で手を合わせる桐椰くんを、盗み見る。変わったといえば、桐椰くんは、少しだけ痩せた。大学生の間はあまり変わらなかったけれど、司法試験の勉強を始めてから、少し痩せた。不健康な痩せ方じゃない。でも少し、線が細くなった。

 じっと見つめていると桐椰くんが顔をあげたので、慌てて視線を逸らした。


「……戻るか」

「そうだねー」

「……さっき、こっち見てなかった?」


 バレていた。少しドキリとしたけど「あー、うん。桐椰くん、痩せたなーって」と平然と声を出す。


「ああ、勉強始めてから、あんま運動しなくなったから。筋肉が落ちただけだから、そのうち戻る」


 ああ、そっか、不健康な痩せ方じゃないと思ったのは、そのせいか。少しほっとして笑うと、今度は桐椰くんが私を見る番だ。


「お前は、あんま変わらないな」

「そう? これでも体重は増えたんだけどね」

「……そっか。よかった」


 見た目があまり変わらず、体重が増えた。そんな情報に“よかった”なんて。

 やっぱり、私達は、あまり話すべきじゃないかもしれない。でしょ、と無理矢理笑顔を作って誤魔化した。

 墓地を出ても、鹿島くんはまだ戻ってきていなかった。鹿島くんは、喫煙に行くと十分弱は戻ってこない。


「……アイツ、彼女いんの?」

「ううん、いない。大学生のときはちらほら付き合った子いたみたいだけど、今はいないよ」

「……そっか」


 桐椰くんは、彼女はできた?

 そう聞くことはできずに、また沈黙が落ちた。


「……桐椰くんって、いま弁護士なの? 肩書なに?」

「今……は、ただのニートだな」


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