第四幕、御三家の幕引
 桐椰くんとニートという肩書が似合わなさ過ぎて笑ってしまった。仕方ないだろ、そういう立て付けなんだから、と桐椰くんは口を尖らせる。


「ごめんごめん。じゃあまだ弁護士じゃあないの?」

「ああ、なるのは、来年の十二月。今から修習っていう、一種の研修に行って、それが終わったら弁護士」

「え、研修なんてあるの。大変だね」

「大変じゃねーよ、今まで勉強してきたことに比べたら。どっちかいうと、修習は人生最後の夏休みだから」

「えー、いいなあ。私、もう夏休みないよ? 社会人ってやだね!」

「総も同じこと言ってた。俺と駿哉が学生やってる中、アイツが一番早く就職したから」

「あー、そっか、そうだね。松隆くんは(ずる)いって言いそう」

「社会人になった直後、散々ぼやいてたからな。本当に働くことに向いてない、って。そのうち会社の金でMBA取りに行くかもとは言ってたけど」

「MBA?]

「あー、要は経営学のための留学だよ」

「……相変わらず御三家は優秀ですね?」


 ごく普通の称賛であるはずなのに、なぜか桐椰君は苦笑した。


「……久々に聞いたな」

「ん?」

「御三家って呼び方」

「あー、あー。誰からも言われないか」

「当たり前だろ、大学からバラバラになったんだから」


 御三家は、綺麗にそれぞれ第一志望に合格した。月影くんは東都大学理三、桐椰くんは一ツ橋大学法学部、松隆くんは帝都大学経済学部……。月影くん以外卒業してしまったけれど、いつ並べても錚々(そうそう)たる経歴だ。

 つい、高校三年生の三月を思い出して笑ってしまった。


「すごかったよね、職員室で報告受けた先生から握手の嵐。桐椰くんなんて合格発表終わった後も握手されてた」

「アイツら二人の発表が最後だったからな、アイツら二人にくっついて行ったら、なぜか報告済みの俺まで。てか、マジで泣いて喜んでたよな、教頭」

「御三家のお陰で花高の倍率高くなったらしいね」

「今はお坊ちゃんお嬢様の割合、若干減ったらしいしな。栄くんが寄付するときに話を聞いたらしいけど──」

「あ! そういえば! 彼方、結婚するって本当!?」


 松隆くんのお兄さんから連想してしまい、思わず大きな声が出た。


「ん? ああ、本当。うちに挨拶に来たよ」


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