第四幕、御三家の幕引
 そう、あの彼方が結婚するらしい。相手は、大学生の同級生、当然大学生のときから付き合っている。

 確かに、珍しく長く付き合っているなとは思っていた。聞くたびに彼女の変わる彼方が、会うたびに同じ彼女の話をしてたから。遂に本命を見つけたのか、とは思っていたけれど、まさか結婚とは。


「大学の同級生なんだよね? どんなひと?」

「んー、落ち着いた人。あのバカにはもったいない」

「彼方だって、弁護士になってから少しは落ち着いたでしょ」

「さあ……。どっちかいうと、仕事が忙しくて生活が手抜きになったって聞いたけど。それでもまあ、相手が坂大のときからの同期ってだけあって、今更アイツが何しても呆れないで付き合ってくれるだろうなって安心感があるのはいいな」

「そっかあー。結婚式、私も呼んでもらえるかな?」

「呼びそうだけど、お前をどこのテーブルに配置すんだって話があるよな」

「……松隆くんと月影くんは?」

「ああ、アイツらと一緒か。そうだな、有り得るかもな」


 そうだ、彼方といえばね──。続けて話そうとして……、鹿島くんが戻って来るのが見えたので、話すのはやめにした。

 二年ぶりなので、話のネタはたっぷり二年分ある。まさしく掃いて捨てるほど。

 それなのに、口をついて出てこない。

 それでも、まだ、話したいことがたくさんあった。それなのに。


「ごめん、かえって待たせたな。車、あっちだから」

「さんきゅ」


 駐車場には、高級の代名詞のような車が停まっていたので「こんな車、平然と乗り回してんじゃねーよ」と桐椰くんは冗談交じりの嫌味を口にした。


「あると便利だろ。つか桐椰も──、そうだ、タイミングを逸したけど、司法試験に受かったんだってな。おめでとう」

「さんきゅ」

「弁護士になって、稼いで、高級外車の二台や三台、持つんだろ」

「持たねーよ」


 鹿島くんが運転席に乗り込み、私が助手席に乗り「桐椰は後ろな」という指示どおりに桐椰くんが後部座席に座る。

 くん、と桐椰くんは車の臭いをかぐ。


「さっき話してたけど、お前、煙草吸うようになったんだな」

「ああ、悪い。窓を開けるよ」

「いや、ごめん、そういうつもりじゃなかったんだけど。イメージがなかったってか、知らなかったから、そうなんだなって思っただけ」

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