第四幕、御三家の幕引
桐椰くんが、私を見た。
「……元気そうで安心した。またな」
なんと返すべきか、少しだけ悩んだ。
「……うん、またね」
でも、あまり深く考えずにそう口にして。
桐椰くんは、私達に手を振り、腕時計で時間を確認しながら、立ち去った。
その後ろ姿をずっと見ていたせいか、ハンドルに凭れていた鹿島くんに「で?」と鬱陶しそうな声をかけられた。
「……君はどこまで送ってもらうつもりだ?」
「んー、品川まで。お願いします」
「皮肉だ、気付け馬鹿」
「分かんない、馬鹿だから。てっきり駅名を聞かれたのかと」
呆れてものも言えない。そんな顔をされた。
「……今日帰るのか?」
「うん。午前中にお母さんのお墓参りは済んだからね」
「まるで自力で済ませたみたいにいうじゃないか」
「はいはい、送ってくれてありがとうございました」
「人を足代わりに使っておきながらその態度、何様だ、本当に」
鹿島くんの嫌味にぺろっと舌を出してみせる。車を運転できる人がいるというのはいいものだ。
それからしばらく、車内は無言だった。桐椰くんにはコーヒーでも飲むかと言ったくせに、私にはコンビニに寄るかとさえ聞かない。まあいいんだけど。
「……別れてから、会ってなかったのか?」
挙句、漸く口を開いたと思ったらその話題だ。そのくせ、一拍分沈黙したのはなんなんだろう。大体、昔なら、私にそんな気の遣い方はしなかったのに。
「たまーにね、顔を合わせることはあったけど……。基本的に、会ってないよ」
「……別れた理由、性格の不一致って言ったっけ?」
「んー、うん。まとめるとそうだね」
性格の不一致というと、少し違うかもしれない。昔を思い出しながら、少し考え込む。
桐椰くんとは、高校二年生の末に付き合って、大学四年生の初夏に別れた。原因はとてもありきたり。私が就職活動を終えて開放的になった後が、桐椰くんにとっては大学院入試の本番──しかも序の口──だったから。つまり、よくある環境の擦れ違いだ。
ただ、直接の原因はそんなことではない。
「……段々、桐椰くんと、話が合わなくなっちゃったんだよね」
「君達二人が?」
「……元気そうで安心した。またな」
なんと返すべきか、少しだけ悩んだ。
「……うん、またね」
でも、あまり深く考えずにそう口にして。
桐椰くんは、私達に手を振り、腕時計で時間を確認しながら、立ち去った。
その後ろ姿をずっと見ていたせいか、ハンドルに凭れていた鹿島くんに「で?」と鬱陶しそうな声をかけられた。
「……君はどこまで送ってもらうつもりだ?」
「んー、品川まで。お願いします」
「皮肉だ、気付け馬鹿」
「分かんない、馬鹿だから。てっきり駅名を聞かれたのかと」
呆れてものも言えない。そんな顔をされた。
「……今日帰るのか?」
「うん。午前中にお母さんのお墓参りは済んだからね」
「まるで自力で済ませたみたいにいうじゃないか」
「はいはい、送ってくれてありがとうございました」
「人を足代わりに使っておきながらその態度、何様だ、本当に」
鹿島くんの嫌味にぺろっと舌を出してみせる。車を運転できる人がいるというのはいいものだ。
それからしばらく、車内は無言だった。桐椰くんにはコーヒーでも飲むかと言ったくせに、私にはコンビニに寄るかとさえ聞かない。まあいいんだけど。
「……別れてから、会ってなかったのか?」
挙句、漸く口を開いたと思ったらその話題だ。そのくせ、一拍分沈黙したのはなんなんだろう。大体、昔なら、私にそんな気の遣い方はしなかったのに。
「たまーにね、顔を合わせることはあったけど……。基本的に、会ってないよ」
「……別れた理由、性格の不一致って言ったっけ?」
「んー、うん。まとめるとそうだね」
性格の不一致というと、少し違うかもしれない。昔を思い出しながら、少し考え込む。
桐椰くんとは、高校二年生の末に付き合って、大学四年生の初夏に別れた。原因はとてもありきたり。私が就職活動を終えて開放的になった後が、桐椰くんにとっては大学院入試の本番──しかも序の口──だったから。つまり、よくある環境の擦れ違いだ。
ただ、直接の原因はそんなことではない。
「……段々、桐椰くんと、話が合わなくなっちゃったんだよね」
「君達二人が?」