第四幕、御三家の幕引
 まさかそんなはずないだろ、と言わんばかりの口調だった。三年生の一年間、私達と同じクラスだった鹿島くんは、私と桐椰くんが毎日毎日喋っているのを飽きるほど見ていたから。


「……うん。なんだろう、元々、御三家って話のスピードが速いじゃん。なんていうか、お互いに話が通じるのが早い。あれって、仲が良いからだと思ってたんだけど」

「単に頭のレベルが違ったって? そんなことはないだろ」


 鼻で笑ってみせた鹿島くんに、もちろんそうじゃないんだけど、と首を横に振る。


「ただ単に、見てるものが違うのかなって思ったの。なんていうかな、説明するのは難しいんだけど……私が見てるちっぽけな世界と、桐椰くんが見てるものは違うんだなって」

「そこまで言うってことは、決定的な瞬間でもあったのか?」

「瞬間……というほどじゃないけど」

「聞き方を変えようか、何がきっかけだったんだ?」

「……桐椰くんの家に泊まりに行って、桐椰くんの大学の友達に会ったことかな」

「アイツ、友達とそんな小難しい話をしてたのか」

「そういうわけじゃないんだけど……。なんていうんだろう、なんて説明すればいいんだろうね」


 話しても話しても、鹿島くんに伝わらないのは、私が間違っていたからだろうか? そうは思えないのだけれど。


「なんか……『あれ、私がいつも話してる桐椰くんは?』って気が、しちゃったんだよね。桐椰くんが、友達と話してるときに」


 片鱗(へんりん)は、あったのだと思う。ちょっとした瞬間のすれ違いというか、認識とか価値観の相違。ただ、ほんの少しの違和感で済んでいたそれが、いつか(ほころ)びとなっていて、その綻びに私達は気づかなかった。気づいた頃には大きくなりすぎて……ぷっつりと、切れてしまった。


「……私の方から、別れようって言ったんだけど、多分、私が言わなかったらそのうち桐椰くんが言い出してたと思う。段々連絡も取らなくなってたし」


 別れてしまってから、何度も何度も後悔した。本当は別れずに済んだんじゃないかと、何度も思った。私が何かを直せばよかったんじゃないかと思った。今だけ距離を置く方法だってあったんじゃないかと思った。些細な擦れ違いに目を瞑り、知らないふりをすれば、嵐のように過ぎて終わってくれるんじゃないかと思った。

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