第四幕、御三家の幕引
 何度も、何度も、何度も──。ずっと、そればかりを思った。


「……そうか」


 でも結局、私達は別れたまま。もう二年が過ぎた。


「で、二年経った今は? まだ引き摺ってるのか?」

「……少しは気を遣ってくれるようになったと思っていたんですが。そういうこと聞きます?」

「別れたあとに泣き喚きながら俺に電話してきておきながらなにを。お陰であの時の彼女にはフラれた」

「それは悪かったって謝ったじゃん! ていうか、鹿島くんも『別に好きじゃなかったからいい』とか言ったじゃん!」

「それとこれとは別だろ」


 こうして鹿島くんに会うようになったのは、その電話がきっかけだった。誰に話せばいいのか分からなくて、松隆くんも月影くんも──彼方も、桐椰くんに近すぎて、電話する気になれなかった。そこで、トーク画面でたまたま上位にいた鹿島くんに電話をかけた。

 あの時の、電話の向こうの鹿島くんは迷惑そうにしていた。そのくせ、夜中まで私の電話に付き合ってくれた。

 鹿島くんには、たまに彼女ができるけど、それだけだ。しかも、彼女がいようがいまいが、今でもこうして足繁く海咲さんのお墓に足を運んでいる。それだけみれば、何を考えているか──何を思っているかなんて、愚問だ。


「……でも、不思議だね」

「なにが?」

「昔は、鹿島くんとこんなふうに話すようになるとは思ってなかったから」

「まあ、桐椰と別れればあの二人とも疎遠にはなるからな。仕方ない」

「そう考えると……」


 言いかけて、口を噤んだ。鹿島くんの視線が一瞬こちらに向く。なにを言いたいかは分かったので、先に口を開いた。


「……桐椰くんと付き合ったこと、後悔してないよ」


 付き合う前も、付き合った後も、付き合っている間は、考えもしなかった。こうして別れてしまうと、友達よりも遠い人になってしまうこと。真っ先に連絡をとっていた相手が、人伝にしか連絡を取らない相手になってしまうこと。恋人ではないことと恋人でなくなることとは違うこと。

 ……恋人でなくなるということの意味を、私は知らなかった。


「もう、今までのように会えなくても?」

「……うん。もう、あの時には戻れないけど。恋人って選択をしなければ、今でもずっと一緒にいられたかもしれないけど、それでも、桐椰くんの彼女だった時間は幸せだったから」


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