第四幕、御三家の幕引
 鹿島くんの視線がもう一度私を見た。


「……ティッシュなら勝手に使え」

「……そうする」


 私はまだ、桐椰くんより好きな人を知らない。

 鹿島くんはご丁寧に新幹線口まで送ってくれた。なんならコインロッカーから出した後のスーツケースを代わりに持ってくれた。こんなことが昔もあった気がしたけど、いつのことかは思い出せなかった。


「じゃあな」


 そのくせ、別れを惜しむこともなく、あっさり私にスーツケースを押し付ける。これが鹿島くんなりの不器用な優しさなのかもしれないと思うと笑えてしまった。


「なに笑ってる」

「鹿島くんの彼女に見つかったら怒られちゃうなって」

「今はいないって言っただろ。……しばらくは作らないことにもした」


 その理由は、海咲さんより好きな人を知らないから、だろうか。鹿島くんは何も言わないけれど、きっとそうだ。

 その意味で、私と鹿島くんは同じだった。


「……新幹線、出る時間だろ」

「はーい。ありがとね、送ってくれて」

「礼なら言葉じゃなくて物で寄越せ」

「そういうとこだよ、鹿島くん」


 べ、と舌を出して──笑って、手を振った。


「またね!」
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