第四幕、御三家の幕引

 男は、好きな相手じゃなくてもできる──。そんなことは、なんとなく知っていた。


 それでも、好きな人とはしたいのが、女心ってものだ。


 明貴人は、たまに、私を抱く。たまに。すごく、たまに。


 最初に抱かれたのは、いつだっただろう。


 「明貴人の部屋に行ってみたい」とねだると、意外と簡単に頷いてくれて、部屋に行った。生活感のない部屋だった。リビングには机とパソコンとベッドしかなくて、キッチンには冷蔵庫と電子レンジがあるだけ。調理器具なんてものはなく、使われている形跡はほとんどなかった(今は、私がご飯を作るために色々と持ち込んでいる)。明貴人のパソコンで、私が加入しているアマプラで映画を見た。映画を見終わった後、明貴人は「もう遅いんじゃない」と暗に帰るように促した。


 週に、一、二回、明貴人の部屋に行った。明貴人はいつも私が勧める映画を見た。ご飯をどうしているのか聞くと、「学食か総菜かな」と返ってきた。私はたまに食材を買ってきてご飯を作った。明貴人はおいしいともおいしくないとも言わず「ありがとう」と手間にだけ感謝した。


 二ヶ月くらい経った後、映画を見ながら、明貴人が寝落ちした。明貴人が目を覚ましたときは、私はもう終電を逃した後だった。仕方ないとでもいうように、明貴人はシャワーとベッドを貸してくれた。私は、期待しながら、一緒に寝ようと言った。


「好きじゃないのに?」


 ベランダで煙草を吸いながら、明貴人は申し訳なさそうに答えた。
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