第四幕、御三家の幕引

 それでもいい、と言ったあの日以来、明貴人は、たまに、私を抱く。私がせがむまでもなく、なんとなく気が向いたとでもいうように、たまに。


 それが、明貴人にとって、なんとなく寂しくなった、という日だということは、察していた。


 だから、今日抱かれるのかな、なんてことは、ちょっとだけ分かる。今日は、そういう日だ。ベランダで煙草を吸った後の明貴人は、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一口飲んでから、それを机に置いて、私の前に座り込む。


 そのまま、唇が触れようとしたときだ。


 ブーッ、と、机の上のスマホが鳴り始める。明貴人のスマホだ。明貴人はパチリと目を開き、机の上を見た。


 次いで、顔をしかめる。今まで、そんな表情、見たことがなかったのに。


 だから私も素早く机の上を見た。表示されている名前は『桜坂亜季』──どう見たって、女だ。


 まさか、今、電話に出るのか。おそるおそる明貴人の様子を見るまでもなく、明貴人は、スマホを手に取った。


「もしもし」

「《……鹿島くん……》」


 しかも、相手の女は泣きじゃくっていた。なに。何者なんだ、相手の女は。


「……急になんだ」


 そんな迷惑そうな声、私は出されことがない。


「《……寂しい……》」

「俺に関係が?」


 そんな冷たい返事、私はされたことがない。


「《……もうちょっと優しくしてくれてもよくないですか》」

「相手を間違ってるだろ。彼氏にしろ」


 そんな乱暴な態度、私はとられたことがない。


「《……さっき、別れた》」

「……ああそう」


 いや──明貴人が電話口を押さえながら「悪い、今日は帰ってくれ」と言いながら手を振った──今しがた、酷い態度をとられた。
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