第四幕、御三家の幕引

 次の日、一限の講義室に行くと、明貴人はいつもどおりに授業に来ていた。今朝、私のスマホには何の連絡もなかったから、まだ寝てるのかもしれないと思ったのに。


 いつもは明貴人の隣に座るけれど、今日は離れて座った。


 授業が終わった後も、明貴人からの連絡はなかった。パソコンを片付ける明貴人のもとへ行くと、ようやく顔を上げ「ああ、昨日は悪かったな」と形だけのような謝罪をされた。次いで、眠そうに欠伸(あくび)をかみ殺す。


「……昨日の」

「ああ、桜坂か?」


 私が、その名前を見たと確信していたのだろう。いや、もっと前から、彼女からの連絡が来る度に、私がその名前を気にしていることを分かっていたのだろう。


 そして私は、今日、明貴人がその名前をあまりにも──友人というにはあまりにも親しく呼ぶことに、嫉妬する。


「……誰?」


 どうやら彼氏と別れたらしいけど、と(うそぶ)く前に。


「元カノ」


 迷いのない返事をされて。


「別れて」


 精一杯のプライドをもって、私も間髪入れずに返事をすれば。


「了解」


 まるで事務手続のように、終わった。
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