第四幕、御三家の幕引
「……そうかな。僕は──別に、自分のことが悪い許嫁だとは思わないけど。特別いい許嫁だとは思わないよ」
「そう?」
「そうだよ。僕は、君に、気の利いた贈り物ひとつできない」
花瓶にある花は、彼女の両親が持ってくるものだ。彼女の両親が持ってくると知っているものを持ってくるのは、両親を押しのけるようで嫌だった。彼女がいつも読んでいる本は、樹が使い走りよろしく図書館から借りてきているものだ。同じことをするのは、樹の二番煎じのようで嫌だった。彼女が時々、本当に時々食べるものは、彼女の妹の手作りだった。そんな器用な真似はできないし、やるにしても、それはなんだか男らしくない気がして、やっぱり嫌だった。
もっと、気の利いたことをしてみたかった。彼女が喜んでくれて、他の人にはできなくて、彼女の許嫁なんだと自慢できるような、そんな気の利いたことをしてみたかった。でも一向に思いつかなくて、いつも手ぶらでここへ来ては、時間の許す限りいるくらいしかできなかった。
彼女は笑った。
「別に、いいんじゃない。プレゼントは気持ちだって、いうじゃない」
「そんなの、物ありきじゃないか。僕は……。……何も、持ってきてない」
気持ちだけはあるよ、とは、言えなかった。
「ねぇ、明貴人くん」
パタン、と本を閉じる音が、いやに大きく響く。
彼女は、重たそうなまぶたを窓の外へ向けながら、とても疲れた様子で、呟く。
「わたしは、いつまで……あなたの想い出に、いられるのかな」
その、言葉が、いやに重たく、圧し掛かる。
「……なにを、言ってるんだよ」
思わず出た声は、掠れて、笑い混じりの、冗談をいうなとでもいうようなもので。
「いつまで、僕の想い出に、って……」
「……そうね。なんでもない……なんでもないよ」
「なんでもないわけないだろ。想い出になんか……、ならないだろ」
その意味が、分からずに、惑って、なんとか、気持ちを吐露するように続けた。息を吐き出しながらの声は、酷く頼りなく聞こえた。
「君のことが、想い出になるなんて、まだまだ、そんなのずっと先だ。……違う、そうじゃない、想い出になるっていうのは……。……僕にとっては、ずっといまだ。僕にとっては、僕は、君を好きでいるのは──」
「そう?」
「そうだよ。僕は、君に、気の利いた贈り物ひとつできない」
花瓶にある花は、彼女の両親が持ってくるものだ。彼女の両親が持ってくると知っているものを持ってくるのは、両親を押しのけるようで嫌だった。彼女がいつも読んでいる本は、樹が使い走りよろしく図書館から借りてきているものだ。同じことをするのは、樹の二番煎じのようで嫌だった。彼女が時々、本当に時々食べるものは、彼女の妹の手作りだった。そんな器用な真似はできないし、やるにしても、それはなんだか男らしくない気がして、やっぱり嫌だった。
もっと、気の利いたことをしてみたかった。彼女が喜んでくれて、他の人にはできなくて、彼女の許嫁なんだと自慢できるような、そんな気の利いたことをしてみたかった。でも一向に思いつかなくて、いつも手ぶらでここへ来ては、時間の許す限りいるくらいしかできなかった。
彼女は笑った。
「別に、いいんじゃない。プレゼントは気持ちだって、いうじゃない」
「そんなの、物ありきじゃないか。僕は……。……何も、持ってきてない」
気持ちだけはあるよ、とは、言えなかった。
「ねぇ、明貴人くん」
パタン、と本を閉じる音が、いやに大きく響く。
彼女は、重たそうなまぶたを窓の外へ向けながら、とても疲れた様子で、呟く。
「わたしは、いつまで……あなたの想い出に、いられるのかな」
その、言葉が、いやに重たく、圧し掛かる。
「……なにを、言ってるんだよ」
思わず出た声は、掠れて、笑い混じりの、冗談をいうなとでもいうようなもので。
「いつまで、僕の想い出に、って……」
「……そうね。なんでもない……なんでもないよ」
「なんでもないわけないだろ。想い出になんか……、ならないだろ」
その意味が、分からずに、惑って、なんとか、気持ちを吐露するように続けた。息を吐き出しながらの声は、酷く頼りなく聞こえた。
「君のことが、想い出になるなんて、まだまだ、そんなのずっと先だ。……違う、そうじゃない、想い出になるっていうのは……。……僕にとっては、ずっといまだ。僕にとっては、僕は、君を好きでいるのは──」