第四幕、御三家の幕引
 最後まで言う前に、言葉を切った。さきほどからずっと気怠そうにしていた彼女が、目を閉じていたから。

「……僕が」


 ぽつりと、一人称が零れた。彼女に出会ったときの一人称が、彼女の前では癖になっていて、それが一層自分の幼さであるように聞こえて。

「……俺が、君を好きでいることは……想い出なんかに、ならない……」


 彼女にその声が聞こえていたのか──俺はずっと、知らないままだ。





 次の日、慌てて駆け込んだ病室で、聞こえていたのは、自分と、樹の、荒い呼吸だけで。

 空っぽになった病室の白さは、ただ、虚にしか満たされておらず。

 彼女の姿は、どこにもなかった。
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