第四幕、御三家の幕引
「……明貴人さん」


 その日は、雪がちらついていた。

「娘を大切にしてくださって、ありがとうございました。許嫁は……言ってしまえば、ただ、結婚の約束をしているだけ、そんなものですが……娘にとっては、そんなものではありませんでした。秋桜畑の日を、あの子は、本当に喜んでくれたんです。あの日が、あの子にとって、最後の……外に出ることができた、最後の日でしたから……。この半年間……明貴人さんが、あの子に幸せをくれました……娘は、あなたが許嫁でいてくれて、本当に幸せでした」


 呆然として、涙も出なかった。なぜ彼女がいないのか、理解することもできずに、棺の中の彼女を前に、ただ茫然と立ち尽くすしかなかった。周りの様子など目にも耳にも入らず、気が付いたときには──骨の前に、立っていた。

 膝から下の骨が、あまりにも弱弱しいことに気が付いたとき。

 彼女の骨であることを理解させられて、その残酷な、暴力じみた現実に、自分が彼女を失ったことを知った。
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