第四幕、御三家の幕引
「鹿島くんは、まだ海咲さんのことが好きなの?」
馬鹿だ馬鹿だと思っていた桜坂は、たまに連絡をしてきては、たまにそんな馬鹿なことを聞く。鼻で笑い飛ばしたくなるのを我慢しながら「まあね」とだけ答えた。
「ふぅん」
「なんだ藪から棒に」
「ううん、私と鹿島くんって、意外と同じなのかもしれないなーって」
「君がまだ桐椰を好きだから?」
「……うん」
でも結局、我慢できずに鼻で笑い飛ばした。桜坂は「どうせ未練がましいですよ」としかめっ面だ。嘲笑の意図が欠片も伝わらず、本当にコイツは馬鹿正直だなと思った。
「どうせ、君には分からないことだよ」
「はあ?」
この感情がなくなってしまったら、今までの自分が足下から崩れてしまうような、自分が自分でなくなってしまうような、そんな気がする。だから、まだもいつかも、自分にはない。ただ時が止まったように、呆然と、この感情だけを抱いて生きているし、きっとこれからも、自分が自分である限りそうなのだと思う。
気付いてしまったのだ。俺はもう、彼女の年齢を追い越してしまったこと。一生年上だったはずの彼女は、もう、一生年下のままだということ。
だから、同じなんかじゃない。俺と桜坂は同じじゃあない。馬鹿にするな、馬鹿をいうな、勝手に恋して勝手に救われて勝手に終わらせたお前なんかと一緒にするな。
そう、桜坂を詰りたかったけれど、そんなことをしてしまえば、愛なのか恋なのか分からない自分の気持ちが、酷く低俗なものに成り下がってしまう気がして言えなかった。
『私はいつまで、あなたの想い出の中にいられるかな』
彼女の声が甦るたびに、大丈夫だよと、答える。
大丈夫。君だけを想い出の中に置き去りにしたりしない。
俺もずっと、君との想い出の中にいる。