第四幕、御三家の幕引


「これ、ジョーズ寒くね?」

「そうだねぇ……他に行きたいところあるなら変えとく?」


 レストラン内で話していた凍える覚悟はできなかったようだ。松隆くんは、風が当たる面積を少しでも少なくしようとするように、マフラーを鼻まで持ち上げる。


「そろそろ降りそうだし。スパイダーマンにしようよ」

「……そうするか」


 月影くんは、一応納得しつつも、どうにもジョーズに行きたくて仕方がなかったようだ。桐椰くんに「まぁまた来ればいんじゃね」と慰められている。

 さて、いざ行き先を変更するとなると進行方向はどちらだ、と月影くんがマップを広げ、松隆くんとふーちゃんがそれを覗き込む。旅行中の道案内は月影くんに任せきりなので、今回もそれで間違いない。

 きっと桐椰くんも同じ思考で、わざわざマップを見ることはない。ぐるぐる巻きのマフラーに顔を埋め、手をコートのポケットに突っ込み、最大限縮こまって寒さを凌ごうとしている。


「何?」


 思わずその頭を撫でたくてうずうずしてしまっていると、視線に気づいた桐椰くんが目だけを向けた。鼻から下はマフラーに蹲ったままなので、その声はいつもよりくぐもって聞こえる。


「ううん、柴犬みたいだなって思って」

「柴犬はマフラーしねーだろ」


 そこじゃない。そうツッコミを入れたかったけれど、「つかお前の首元、寒々しい」なんて言いながら手が伸びてきたので思考が停止した。


「え」

「ちゃんと暖かい巻き方しろよ。体温逃げるだろ」


 そして予想通りというかなんというべきか、その手は躊躇なく私の首のマフラーをほどき、丁寧に巻き直す。白い息がかかるほど近くにあるその手が動くのを、じっと見つめてしまった。


「ほら、こうすれば暖かいから……」


 ぽんぽん、と結び目を軽く叩かれて、ゆっくり桐椰くんを見上げる。今までの桐椰くんならここで自分の無意識行動に赤面するところだけれど、なぜか余裕ありげに怪訝な顔をするだけだ。


「なんだよ」

「ううん、お世話焼かれちゃったって思って。さすが保護者属性!」

「なんだよ保護者属性って、語呂悪ぃな。しかもアイツら置いていきやがった……!」


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