第四幕、御三家の幕引

 きっと、桐椰と付き合うまでの桜坂は、俺と似ていた。いつかこの手を取ってくれる人を待ち焦がれ、でも探すつもりはなく、ただ力なく、へたり込んでいた。

 それでも、桐椰が、その桜坂の手を取った。へたり込んでいた桜坂はいなくなった。それなのに──桐椰がせっかく、桜坂の手を取ってくれたのに──桜坂は、あの馬鹿は、なんだかんだと理由を付けてその手を放してしまった。

 俺の知らない、本人達しか知らない終わりがあったのかもしれない。ただ、救われたいならその手を離すなと言いたかった。桐椰は桜坂を救ってくれたんだから、きっとこれからも救ってくれるんだから。桜坂が桐椰の手を放す理由はない。他のヤツをいくら探したって同じことの繰り返しだ。どうせ桜坂を救えるのは、桜坂とは違う人種なんだから。

 でも、もしかしたら、桜坂はもう救われたのかもしれない。救われた桜坂は、もう俺とは似ていなくて、俺とは違う人生を歩めるのかもしれない。それは、俺には分からない。

 ただ、殊、誰かを好きになるということに関しては、俺と桜坂は、いまでも背中合わせでへたり込んでいる。

 そして、俺達自身は、互いに手を取り合うには弱すぎて、互いに寄り添うにはプライドが高すぎる。

「だから、桜坂に向ける心は、少なくとも恋ではない」

 ただ、時折振り返って、つぶさに言葉を交わして、また違う方向を向いて。

 そんなことをしながら、ずっと、俺達は、交錯することのない未来を生きていく。
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