第四幕、御三家の幕引
「そうだねー、あんまり友達いないんだけどねー」

「……あ、そ」

「そこはちゃんと鼻で笑ってくれないと余計に私が寂しい人になっちゃうんですけど」

「お前の最近のボケが分かりにくいんだよ」


 そうじゃない。きっと、桐椰くんは最初よりも私を知ってしまったから、笑えないことがあると踏みとどまってしまっているだけだ。


「いいから、とっととアイツらに合流するぞ。総とか、俺達のこと無視して列に並びかねないからな」


 舌打ちでもしそうな様子で歩き出した桐椰くんを追いかけて、隣に並んで、ふと思うところがあってその背後に回る。視界で現れたり消えたりする私に、桐椰くんは当然怪訝そうな顔をした。


「何してんだよお前」

「寒いなって」

「いや、だから何してんだよ」

風除()け!」

「おい」


 ポケットから出てきた手に頭を掴まれてしまって、ぎゃー、と冗談交じりの悲鳴を上げる。そのまま手は背中まで降りてきて、早く歩けとでもいうように叩かれた。


「あー、暴力だ」

「なにが暴力だよ、横歩け、横」

「いーじゃん、後ろでも。桐椰くんは損しないよ?」

「なんかズルイだろ! いいから……」

「え?」


 そうやって、BCCの直後くらいのテンションでじゃれていたとき。

 不意に、水を差すような声が、背中から聞こえた。

 天気の悪い平日とはいえ、誰もいないわけではない。ごく普通に、中学生から大人まで入り交じった雑踏の中で、私達に向けられたものとも限らないのに、なんとなく、振り返ってしまった。

 でも、知った顔はいない。知らない人ばかりのまばらな人混みには何一つ心当たりがない。


「どうした? ……っと、やべーな、本降りになりそう」


 挙句、振り出した雨のせいで、視界には一瞬で傘が広がった。当然のように桐椰くんの傘に入れてもらったのもあって、背後からは視線を外す。


「誰かいたのかよ?」

「ううん、誰も。気のせいっぽい」


 一瞬しか聞こえなかった声は、どんなものだったか。脳内で反芻しようとしても、雨音に声が塗り潰されていく。振り向いてもう一度確認しようにも、やっぱり雨が視界にモザイクをかける。

 首を捻りながら自分の傘を取り出して、開く頃には、気のせいだったかな、と思い直す。


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