第四幕、御三家の幕引
「何か?」
「そういえば松隆くんもお弁当だなって思って」
「家政婦が作ってるんだろ」
「時々桐椰くんのおかずかっぱらってたなー」
「どこを切り取ってもそこの二人の仲は気持ち悪いな」
「月影くんはお母さんのって感じのお弁当なんだよねー。しかも食べた後にちゃんとお弁当箱漱いでるの、偉いよねー」
「君とは真逆の家族関係だな」
「それ言っちゃうと松隆家はうちとちょっと似てるかもね。でも松隆くんのとこは厳しいだけなんだろうなー」
「……桜坂」
ぺらぺらと続く御三家の話題に、鹿島くんはお弁当に箸をつけながら不愉快げに顔をしかめた。食事が不味くなるとでも言いたげだ。
「御三家の話はいい。別の話にしろ」
「えー、だって鹿島くんは一生懸命ちょっかいかけちゃうくらい御三家のこと大好きなんでしょ? こうやって情報提供してあげないとねー」
「されなくても大抵のことは知ってる」
「ファンも顔負けのストーカーじゃん。松隆くんのタオルこっそり盗んだりしてない? 大丈夫?」
「呪うにしてももう少しマシな手段を選ぶけどね。どうせなら俺の知らない弱味の一つでも持ってきたら?」
「よく言うよ、白々しい。お互いが一番の弱味なんだって知ってるんだから散々やってきたんでしょ」
睨みつければ、肯定するにはあまりにも不釣り合いな穏やかな微笑が返って来た。
一番最初に抱いた鹿島くんへの印象は、ある意味今でも変わらない。どんな話をしていても、どんな人に会っても、どんな激情を胸に秘めていても、仮面を被るよりも容易く、その表情は摩り替る。穏やかな微笑は、確かに好青年のものだ。それは、松隆くんにもできること。
ただ、松隆くんには、奈落のような悪意はない。
「……本当、鹿島くんって綺麗すぎる見本かなってくらい人間性を疑わせてくれるよね」
「そういう君は分かりやすい偽善者だよね。雨柳、鳥澤、雁屋を利用したことを怒ったくせに、歌鈴を使い捨てたことにはノーコメントときた」
その点については言い訳なんてなかった。無言でもう一度肯定する。
気に食わないのは、私が偽善者であることを否定的に見ないことだけだ。
「嫌いな人間はどんな思いをしてもいいんだ?」