第四幕、御三家の幕引
 性別を答えた瞬間に二人分の視線が増えた気がしたので、慌てて付け加えた。桐椰くん、お兄さんに会うだけなんだから何もやましいことなんかないよ! ……いや、私が桐椰くんにやましさを感じることなんてないけど。


「ふーん。でもいいねー、大学生! 大学生ってだけで無条件に評価高くない? あの深古都も大学生って思うとすっごくかっこいいもんー」


 深古都さんレベルの美形を“あの深古都”などと称するなど、畏れ多いとかそんな話じゃない、最早ただの間違いだ。しかし、そんなところにツッコミを入れる余裕はなかった。先程向いた二人分の視線の鋭さが増したからだ。


「いや、あの、大学生だからって別にそんなフィルターはかからないよ!」

「えー、そう? あたしはやっぱり中学のときは高校生の深古都かっこいーって思ったし、高校生になってからは大学生の深古都かっこいーってなるけど」

「深古都さんレベルになれば別格だよ!」

 慌てて弁解 (というわけでもないのだけれど)をしても、深古都さんのフォローをしたせいで二人分の視線が気配以上の思考を伝えてくる。私の自意識過剰でなければ、だけれど。


「よく聞く話のような気もするが、そんな色眼鏡で異性を見るようになるものか?」


 そしてこれまた私の自意識過剰でなければ、見かねた月影くんが助け船を出した。といっても、せいぜい空気が凍り付かない程度に話に入ってくれるだけだ。なんなら月影くんがふーちゃんと恋愛話をするなんて地雷だ。つくづく、なんでこんな地雷だらけのメンバーで遊びにきてしまっているのか。


「色眼鏡って言うとなんかあれだけどー、やっぱり年上ってそれだけでフィルターかかるよ」

「そんなものか」

「逆に年下ってだけで別のフィルターかかる人もいるけどねー。あたしは弟にしか思えないから年下は無理なんだよねー」

「あぁ、弟妹(ていまい)がいるとそのようなパターンもあるだろうな」


 テイマイなんて日常会話で初めて聞いたよ……。この数日間でリハビリはしたけれど、やっぱり久しぶりに月影くんと話すと、その独特の言葉遣いに慣れなければいけない。


「逆はないのか、兄がいると年上は兄にしか思えない、と」

「あー、それはあんまり聞かないなー。まー、結局恋愛対象なんて一概に割り切れるものじゃないとは思うんだけどねー」


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