第四幕、御三家の幕引
 それを言ってしまったら今までの話は何だったんだってなっちゃうと思うんですけど。


「好みはこういう人! って決まってても、本当に好きになったら全然違うこともある、っていうのはよくある話だよねー」

「その点に関してはよく聞く話だが、実際に聞いた例はそうないぞ」


 百聞は一見に如かずとでも言いたいのか、月影くんはよく言う恋愛論に呆れた反応を示した。


「他人を好きになる前に好みが明確化している者のほうが少ないだろうしな」


 というか、月影くんを好きなふーちゃんが異性の好みの話をするなんて、どんな気持ちで聞いていればいいんだ……。


「そーそー。初恋から逆算しよーとしたら、あたしなんて深古都になっちゃうしねー」

「え!」


 そんな懸念が、突然の新事実に吹き飛ばされた。ふーちゃんは驚いた私の声にきょとん顔だけど、私の反応はおかしくないはずだ。月影くんでさえ酢を飲まされたような顔をしている。


「話したことなかったっけ?」

「ないよ!」

「えー、じゃあ今話したってことでー」


 のらりくらりと答えるふーちゃんの後ろで、松隆くんと桐椰くんは「深古都さんって誰」「薄野家の執事だって」なんて話している。そういえば松隆くんは深古都さんに会ったことがない。


「ふーん、執事ね……。薄野の好きそうな展開じゃない」

「だよねー。いま思えば、あの頃は禁断の関係に憧れてただけなのかもー」

「つか、深古都さんって今大学生なんだろ? 何歳上だよ」

「いま大学二年生だからー、三つ上だね」

「兄貴と同い年か……そんな離れてて好きになるもんか?」


 なんとなく非現実的だよなぁ、と桐椰くんと松隆くんは頷く。


「そもそも執事って一定の距離を置かれてる相手ではあるしね。こっちも日常生活を見られてるだけで、心理的に近いわけじゃないし」

「やだなー、王子様はそんな理屈っぽいことばっかり言ってるから本命にモテなさそうとか言われちゃうんだよー」


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