第四幕、御三家の幕引
 私がピシッと固まると同時に、松隆くんのこめかみにはビシッと青筋が浮かんだ。一体誰だ、そんな核心をついたのは。記憶を探ると、そんな指摘をした人に心当たりはあった──雅だ。でも雅とふーちゃんの接点は誘拐事件以外ないし、あんなときにそんな話をする余裕なんてなかったから、雅がふーちゃんに伝えたわけじゃない。となると誰が見ても松隆くんはそう見えるというわけだ。猶更問題だ。

 何かフォローするべきかもしれないけど何も浮かばない、そうオロオロしている間にもふーちゃんは「大体、年上がかっこいいのは真理だよー」と話を続ける。


「自分よりなんでもできて頼りになるんだよー? 頼りになる男の人はかーっこいいよ」

「年取ってる分できるのは当たり前だろ」

「お前、そういうとこだって、いま言われたろ」

「というか、件の深古都さんには恋人でもいるのか」


 というか、いい加減この話題を止めるべきかな……。月影くんがふーちゃんに恋バナしてるって、地雷の埋まりまくった戦場を走っているに等しいのでは?

「えー、今はいないんじゃないかなー。高校生の頃は大体彼女いたっぽいけどー、なんで?」

「目の前にいる相手を中途で想わなくなることが有り得るのかと、ただの素朴な疑問だ」

「あー、まーそこは、深古都から線引かれちゃってたからな」


 今のところ、ふーちゃんが傷ついた顔をすることはない。ごく普通に、想い出話でもするように、視線を彷徨わせてみせるだけだ。


「中学生の頃は口も悪かったけどー、ざっくり言えば、雇ってる側と雇われてる側でどうこうなる気はさらさらないから、夢見るのは勝手だけど子供のうちにしとけ、みたいなこと言われたんだよねー。その後も、深古都に彼女いるのは知ってたしー」


 ただ、ふとその瞳には翳りが差す。


「どうしようもないかもなーって思ってるうちに、新しい出会いがあれば新しく好きになる人もでてくるしー……そんなものかなー、恋愛なんて」


 そしてやはり地雷を踏み抜いた……。深古都さんへの片想い話はさておき、月影くんを好きになったと思ったらやっぱり片想いに終わるどころか失恋まで確定してるなんて、口に出して話させることが拷問に等しい。


「で、話は変わるけど、この後どうするの」


 さすがに松隆くんも気遣うべきと感じたのか、軽い口調で話題を変える。


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