第四幕、御三家の幕引
「まさかこのクソ寒い中、まだジョーズに行きたいとは言わないよね?」

「言うが」


 そして月影くんは声のトーンを変えないままで、しかもこの有様だ。もしかしたら幼馴染二人は気付けるくらいの微妙な変化はあるのかもしれないけど、少なくとも私には何も分からない。月影くんの鈍さは底を知らない。

 それはさておき、どれだけジョーズに拘るんだ、と本人以外は呆れ顔になってしまう。


「なんで。言わずもがな反語だよ」

「一人でも行くので問題ない」

「別に好きにするのはいいけど、流石に風邪ひかない? 寒いと思うよ、入る直前に雨も降りだしたじゃん」

「また来ればいいんじゃねーの? 別に海外来てるわけじゃねーんだからさ」

「そうだよ。特に俺は関西来る予定だし、また遊びに来れば?」


 また──。何気ない会話に、ふと期待してしまう。

 御三家が当たり前に想像する未来に、私はいるのだろうか。


「お前も」


 だから、桐椰くんに見られ、ドキリと心臓が揺れた。


「今日無理しなくても、また来ればいいだろ」


 何も言ってないのに、なんでそんな目で見られるんだろう。探るのではない、何かを見透かしたような目。

 その目は、何かを知っていることの裏返しのようで。


「えー、私、月影くんみたいにどこ行きたいここ行きたいみたいな我儘言ってないじゃん」

「言ってねーけど、お前も今日以外来れねぇくらいのテンションじゃねーか」

「そんなにテンション低く見えた? もしかして桐椰くん煽ってないから? ごめんね、そんなに桐椰くんが私の煽り待ちだなんて知らなくててててて」


 声が上擦ったのは煽るためだと、桐椰くんは勘違いしただろうか。きっとしてくれなかった。その証拠に、以前のような怒った顔にはなってくれなかった。怒ったように見せているのは、私の頬を抓るその手だけだ。

 お陰で、ぞわりと、産毛が逆立った。桐椰くんは、何に気付いた?

 この四日間で、桐椰くんが新しく情報を手に入れる契機はなかった。せいぜい、私と鹿島くんは両想いじゃないと確信しただけだろうし、それだって最初から確実だったようなものだ。

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