第四幕、御三家の幕引
 となると……。私が鹿島くんと付き合ってから今まで、桐椰くんは既に何かを知っていたけれど、その話題を口にする機会がなかっただけ……? そうだとしても、その“何か”を知ることなんて──。


「おい、くだらないじゃれ合いはやめて俺がジョーズ以外言っていないことを指摘しろ」

「人を犬みたいに言うんじゃねーよ!」

「どうでもいいから、桜坂乗りなよ」

「お前はさりげなく隣を陣取ろうとしてんじゃねーよ!」


 乗り物の前で、不意に腕を引かれたかと思うと、松隆くんの隣に座らされた。しかも反対側には桐椰くんが座った。お陰で桐椰くんへの疑惑も吹っ飛んだ。

 何事だ、これは。因みに、ふーちゃんはにやにやしながら一列後ろに乗った。その隣には月影くんがいるけれど、あのにやにやは隣に月影くんがいる嬉しさからではない。私の今の (物理的)状況を楽しんでいるだけだ……!

「別にさりげなくないでしょ、ちゃんと呼んで座らせたし」

「そこじゃねーよ問題は!」


 安全バーを下ろしながらも、桐椰くんは今にも松隆くんの胸倉を掴む勢いだ。どうでもいいから私を挟んで口喧嘩するのはやめてくれないかな。なんなら松隆くんは、桐椰くんをからかうためにこんなことをしたまである。


「大体、さりげなく隣陣取ろうとしてるっていうならお前のほうがそうじゃない? 後ろの列に座ればよかった話だろ」

「前から座るのがマナーだろ!」

「はぁ、マナー。マナーにかこつけて隣陣取るなんて、いつの間にそんなさりげない方法覚えたの?」

「お前は何目線だよ! つかマナーだからさりげなくもくそもないって言ってんだろ!」

「かこつけてるとこがさりげないって言ってるんだけど、理解力落ちてない? 大丈夫?」

「コイツみたいな煽り方してくんじゃねーよ! 大体お前は──」

「恥ずかしいので黙ってくれないか」


 松隆くんの細やかなお遊びは、月影くんの冷ややかな鶴の声で終了した。

 そして、ほぼ同時にアトラクションが本格化。いかんせんテーマパークだとか遊園地だとかに縁がないので、ぐらぐら揺れる視界と乗り物に、私だけが「ぎゃあ!」「ふおっ」なんて本気で奇声を発している。桐椰くんでさえ声を上げるほどのリアクションはとってないせいで余計に馬鹿っぽい。松隆くんが鼻で笑う気配がした。


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