第四幕、御三家の幕引
「高校生がここまで楽しんでくれたら経営者冥利に尽きるだろうね」

「相変わらず皮肉と嫌味はお手の物ですね、リーダー。完璧を目指すなら子供らしく楽しんだリアクションするのも完璧のうちで──ふぎゃあっ」


 突然水飛沫が散ったような感覚がして、今度は悲鳴を上げてしまった。背後から「悲鳴まで演技がかっているんだな」と聞こえた気がするのは被害妄想だろうか。右隣から弾けるような笑い声が聞こえたのも被害妄想だろうか。左隣からにやにや笑われている気がするのも被害妄想なのだろうか。


「桜坂、楽しむのはいいけどさ」


 なんだなんだ、と視線も向けないままに頬を膨らませる。


「こういうの、終盤に写真撮影あるから、気を付けたほうがいいよ」


 ぱんっと頬の膨らみを弾けさせたときには、もう遅かった。

 スパイダーマンが車上に降りてきたと思ったら、ハイチーズ、みたいな台詞と共に一瞬でその手のカメラを光らせたからだ。

 ……松隆くんめ。シャッターチャンスを知りながら言ったに違いない。私が不意打ちの顔で写るのを期待していたに違いない。実際そうなったに違いない。

 スタート地点に戻る乗り物上で呆然としていたせいで、頭上で交わされる「結構楽しかったな」「ま、王道のアトラクションだったね。よかった」なんて無難な感想は頭に入ってこなかった。アトラクションの後の写真ってみんな買うものなのかな。そうだとしたら私のとんでもなく間抜けな顔がみんなの記録に残ってしまうという……?

 その懸念は杞憂となってくれず、アトラクション出口に向かう途中でみんな立ち止まって写真を見るときた。


「なんでお前変顔してんだよ」


 よりによって真っ先に鼻で笑ったのは桐椰くんだ。キッ、と睨み付けた後に私も写真を見る。


「桐椰くんだって! この顔! もう本っ当に楽しそうに笑ってるじゃん! ……楽しそうに笑ってるじゃん……」


 あまりにも綺麗な笑顔で写っていたので、リピートすると共に敗北感に(さいな)まれて顔を手で覆う羽目になった。


「駿哉、写真くらい笑いなよ」

「写真を撮るタイミングとは知らなかった」

「うわー、王子様はばっちり綺麗に写ってるねー」

「何、何か悪いの」

「んーん、見た目通り完璧だなぁって」


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