第四幕、御三家の幕引
 確かに、松隆くんの写真写りは完璧だ。桐椰くんほど子供っぽさ全開の笑みではないけれど、一方で、ポーズを決めて撮ったかのような作られた笑みではない。本当に、絶妙にアトラクションを大人に楽しむ笑顔で写っているのだ。鹿島くんと付き合い始めて以来、松隆くん耐性が落ちているのでそう感じてしまうのかもしれないけれど、やっぱり、胡散臭さを感じるほどに完璧だ。いや、胡散臭さを感じるということは、ある意味松隆くん耐性がついているのかも。世の松隆くんファンはこの笑顔には輝き以外感じないに違いない。……考えててこんがらがってきた。

 まぁ、松隆くんの写真写りなんて分かりきったものはどうでもよくて、問題はふーちゃんと桐椰くんがその写真を買ってることなのだ。

 松隆くんは完璧。桐椰くんは可愛い。月影くんはいつも通り。ふーちゃんは素材の暴力。つまり、残念な顔面になっているのは私だけだ。


「……私のところだけ塗り潰したい」

「そんな気にするほどじゃないでしょ」

「気にします、乙女心です」

「君がそんな繊細な感情を持ち合わせているとは笑止千万だな」

「ひっどい暴言だよそれは!」


 月影くんを睨み付けるも、「いつものことでしょ」と松隆くんから嘲笑が降ってくる。ここに私の味方はいないのか。


「だから許せとか言うんですか? というか松隆くんは買わないんですか? こんなに完璧に写ってるのに。それとも完璧なのはいつものことだから特別貴重な写真ってわけでもないってことですかね」

「半分くらい当たってるけど、俺は別に自分の顔を眺める趣味はないだけだよ」

「確かに、お前って集合写真含めこういうの欲しがらないよな」


 フレーム入りの写真を購入した桐椰くんは、松隆くんとは裏腹にしげしげと嬉しそうに写真を見つめる。私が残念な顔になってるのにいいのか。桐椰くんは私のこと好きじゃないのか! いや、好きなら残念な顔でもいいのかな。

 ……考えていて自分の思考回路がすっかりお花畑になってしまったことに気付き、思わず額を押さえた。テーマパークテンションに騙されそうになった。しっかりしろ、私。


「そうなんだぁ。でも王子様、こういうのは想い出だよ、想い出」


 ……煽り半分、喜び半分のその表情に、一瞬の哀愁(あいしゅう)が見えたのは、きっと気のせいではない。


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