第四幕、御三家の幕引
「知らねーよ、聞くのも馬鹿馬鹿しい。つか本人は絞ってるつもりだろうよ」

「確かに、同時に二人以上とは付き合わないよね。すぐフラれてすぐ付き合うだけで」

「えー、なんか桐椰くんのお兄さんっぽくないねー」


 何度となく私が抱いた感想だ。でも逆に反面教師にした説もある。ある意味、あの兄にしてこの弟ありなのかもしれない。


「似てないからね、ここの兄弟」

「遼のほうが落ち着いてはいるんだが、一見して彼方兄さんのほうが兄と分かるのは不思議だな」

「ガタイじゃねーの」


 彼方の名前が出てからは、御三家は彼方の話題で盛り上がってしまった。ついでに、ちょっとだけ松隆くんのお兄さんの話題も出た。御三家がそれぞれの想い出ありきで語るので、人物像というか、どんな人なのかのイメージはほんの少ししか掴めなかったけれど、松隆くんの横顔がやや誇らしげなのだけは分かった。どうやら松隆くんはブラコンらしい。

 ともあれ、私が明日会う相手のことは追及されずに済んだ。

 お陰で安心して明日を迎えられる──そう思って、何も考えずにお風呂に入って帰ろうとしたとき、エレベーターの前で桐椰くんと出くわしてしまった。


「あれ、二人は?」

「まだ風呂。アイツら入るの遅かったしな。お前も、薄野は?」

「今日は疲れちゃったから早めに上がるって」

「ふーん」


 沈黙が落ちた。沈黙を破ってくれたのはエレベーターの到着音だった、というくらい、桐椰くんとの間には会話がなかった。


「中学のときの友達って言ったっけ」

「へ?」


 そんな状況で突然切り出されたから、何の話か、一瞬分からなかった。あぁ、彼方のことか、なんて思ったときには「明日会うの」と粗雑な補足がきた。


「あ、うん、そうだね」

「……連絡取ってたのか?」

「んー、ずっと連絡取ってたわけじゃないんだけど、この間、たまたま再会して、その時に連絡先聞いたんだ」


 怪しまれている……。もうすっかりこの話は終わったとばかり思ってたせいで、ふーちゃんに話した以上の言い訳は考えてなかった。


「……菊池も知ってんのか? ソイツ」

「うん、知ってるけど、雅とはあんまり仲良くないかな」


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