第四幕、御三家の幕引
 鹿島くんは、私と付き合うことにしたそのとき、蝶乃さんと別れた。目の前で電話をかけて「ごめんね、別れよう」なんてありきたりな文句を言った。蝶乃さんにごねられたのか知らないけれど「だって歌鈴は桐椰が好きだろう?」なんて悲劇の当て馬ぶったことまで付け加えるのだから、もう鹿島くんがどんな仮面を被ったって驚かない。

 付き合ってから知ったのだけれど、どうやら鹿島くんはその本性を、蝶乃さんにさえ綺麗に隠しているらしかった。本性を隠すためなら、蝶乃さんは桐椰くんのことが好きだから、なんて理由をプライドに邪魔されることなく易々と吐く。

 ともあれ、それに納得したのか満足したのかは知らないけれど、蝶乃さんは鹿島くんと綺麗に別れた。副会長の地位を失って以来みんなからの評価がだだ下がりしていた蝶乃さんは、今度は鹿島くんの彼女の地位まで失い、最早嘲笑されるを通り越して同情を買われる域まできている。


「どんな思いをしててもどうでもいいくらいかな。蝶乃さん、話しても会話通じないこと多いから、何してもあんまり意味ない気がするんだよね」

「あぁ、歌鈴は論理的じゃないし、世界で一番自分を不幸だと思ってるし、そんな自分は愛されるべきだと思ってるから。下手に地雷を踏むと相手が面倒だよ」


 それが元カノに向ける言葉なのか。どこまでも他人の気持ちを踏みにじるのが好きな人だな。


「……どういう経緯で蝶乃さんと付き合ってたの?」

「彼氏のスペックに丁度いいって歌鈴に言われた」

「…………」

「半分本当だよ。歌鈴からは付き合ってほしいって告白されたけど、別に理由は聞いてないし、歌鈴が桐椰を好きなのは事実だし、要はそういうことだろうと俺は考えてる」


 本日二度目、それが元カノに向ける言葉なのか。不信とはちょっと違うけれど、鹿島くんが蝶乃さんに向けていた関心は、彼氏にしてはあまりにもゼロに近い。


「なんで蝶乃さんと付き合ったの?」

「利用価値がありそうだったから」

「……あ、そ」


 聞くだけ気分が悪くなりそうなのでこれ以上深く聞くのはやめた。大体、鹿島くんの言葉が本心とも限らない。


「そういう君は、なんでこうもご丁寧に毎日俺と一緒に昼食をとりにくるわけ」

「付き合ってるんだから形から入ろうと思って」

「のわりには俺を待たないね」

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