第四幕、御三家の幕引
「……だからって何も知らないのは」

「一生知らないままで済むなら、それはそれでいいんじゃねーの、って俺は思うよ。前にも言っただろ、どうせ真実なんて分かりゃしねーし。それなら一番都合のいいものを真実だと思ってほしい」


 “思えばいい”のではなく“思ってほしい”と他人に向けた言葉であるのは、きっと彼方自身は、そうは思わないから。きっと自分なら本当のことを知りたいと思うから。

 つまり、透冶くんの事件の後の対応が、その選択をした人のエゴだというのは否定しないと。


「……でも、結局、御三家は知ってしまった」

「あぁ。でも、アイツらが知ったのは真実のひとつだ」


 どきんと、心臓が揺れた。彼方は、鹿島くんが暗躍していたと、知っているのだろうか。


「……ひとつ、って」

「本当に本当の真実なんて見つかりっこねーよ。いつだって真実は人の数だけ転がってんだから、その中の一つを拾い上げて真相解明した気になるのはちょっと安直だって話だ」


 ひょいと、彼方はフルーツタルトのフルーツを一粒口に放り込む。


「透冶くんは“会計の不正に対する罪悪感から逃れられなくて自殺した”、“会計の不正をネタに強請(ゆす)られ続け、恐怖のあまり自殺した”、“他生徒からの虐めに耐えられずに自殺した”、“同じ不正をした生徒への(くびき)になるように自殺した”。……亜季ちゃんは、どれが真実だと思う?」


 答えられなかった。透冶くんは、責任感と罪悪感に押し潰されて、どうにも耐えることができずに死んでしまったのだと思っていた。鹿島くんの話を聞いて、鹿島くんはその感情を上手く利用したのだとばかり思っていた。

 それなのに、彼方の与えた“真実”はどれも尤もらしい。透冶くんを唆した生徒が、そのまま透冶くんを強請ってたとしてもおかしくない。金持ち生徒会が一般生徒を虐めているのは周知の事実で、生徒会役員でなくなった透冶くんがその筆頭となっていてもおかしくない。死ぬ直前に先輩に電話をかけた透冶くんは、最後の最後に呪縛を残す意図を持っていたとしてもおかしくない。

 思わず、カフェラテを口に運んで、カラカラに渇いた喉を潤した。図星をさされた私を見て、彼方はニヒルな笑みを浮かべる。裏のない彼方には珍しい、含みのある表情だった。


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