第四幕、御三家の幕引
「八ツ橋もいいんだけど……なにかペアのものを買わなきゃいけないらしいんだよね……」

「厄介なゲームだな」


 苦々しく重々しく義務らしく告げたせいか、笑い飛ばされてしまった。

 そうと決まれば、と彼方は腕時計に視線を遣る。


「何か探しに行く? って言っても、高校生がペアで持つのにいいものってなんだ?」

「あー、確かにあっちは小樽行ってるから丁度手ごろなのがあったのかも。じゃあ適当なマグカップでいいよ」

「マグカップなぁ、意外と場所とって邪魔なんだぞ」


 彼方が一瞬桐椰くんのお兄さんに見えた。いや、お兄さんだけど。あまり彼方に家庭的なイメージはなかった。


「彼方って料理できるの?」

「できるよ、失礼だな。高校のときは自分で弁当作ってたくらいだぞ」

「うっそ」

「ほんっと。大学行くまでは晩御飯当番も回って来てたし、それなら弁当作るかと思って。節約に」

「……でも桐椰くんはお弁当じゃなくない?」

「二人だと毎日ご飯当番くるからな、さすがに弁当までは面倒くさいって。一年のときは学食使ってたらしいなぁ」


 そうだとしても、さすが桐椰兄弟……。何かできないことはないのだろうか。むむむ、と顔をしかめた。


「で、どうすんの? マグカップにすんの?」

「場所とって邪魔でも別にいいよ。……あ、でもペアグラスって言われたっけ」

「じゃあマドラーとかにすれば? 適当な雑貨屋知ってるよ」

「あー、そうしよっかな」


 二人でセットになるものを買うなんて(しゃく)だけど。心の中でそう付け加えた。


「んじゃとっとと探しに行くか。タスクは先にこなすに越したことはない」

「タスクって……まぁタスクだけど。あ、私の分……」


 お店を出る準備をしていると、彼方がひょいと伝票を持って立ち上がってしまった。自分の分がいくらか把握してないので困る、と手を伸ばすけど、彼方はにっこり笑って見せる。


「こういう時、女の子は出さなくていーんだよ。男がかっこつける場面だから」

「えー……でも彼方にはお世話になってるし、逆に……」

「いいからいいから。こう見えていい時給のバイトしてるし」

「大学生のバイトだと時給違うの?」


 結局彼方に奢ってもらって、お店を出てマフラーを巻きながら尋ねた。彼方は「こっち」とお目当ての雑貨屋さんの方向を示す。


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