第四幕、御三家の幕引
「誰も来ないから取り繕わなくていいかなと思って。というか、昼休みくらい逃げないとやってられないんだよねー」


 いかんせん、御三家の姫の地位から生徒会長の彼女の地位に移った私への“死ねくそビッチ”目線は今まで浴びたどんな非難の視線よりも殺気を帯びている。一番酷い噂なんて「どうやったら御三家と鹿島くんまで食い散らかせるのか」だった。ここまで分かりやすい風評被害を自分が経験するとは思わなかった。

 きっとそんなところまで鹿島くんの計算だったんだろうな、と今になってそこまで頭の回らなかったことに反省した。


「それから、君のそのふざけた喋り方が鬱陶しい」

「ふざけた喋り方でもしないとやってられないですよー明貴人くん」


 たまに鹿島くんを名前で呼ぶのは、なんてことはない、彼氏だから名前で呼ぶべきだと思ったものの、名前で呼ぶのを忘れがちなだけだ。まあ初々しくていいか、なんて思うと同時に吐き気がする。


「あの人に迷惑かけないように学校生活安泰に過ごそうと思ってたのに、気付いたら性悪生徒会長の彼女だよ。もういい加減友達もふーちゃんしかいないし、最悪」

「あぁ、薄野ね。よかったね、薄野の頭が良くて。薄野も君から離そうとしたんだけど、意外と扱いづらいんだよ、彼女は」


 みんなが絶賛する鹿島くんを、一応褒めつつも“誰とも仲良くない”と評したふーちゃんは、確かに扱いづらいのかもしれない。いつだって二次元のことしか語らないふーちゃんは、意外と慎重で思慮深い。そういう面を見ていると、月影くんと仲が良かったことも頷けた。


「よかった、ふーちゃんが明貴人くんの罠にかからなくて」

「まぁ薄野を落としてできることは、せいぜい月影を嵌めるくらいだからね。仕方ない」


 じろりと鹿島くんを睨む。この人、御三家を嵌めることしか考えてないのか。


「約束はちゃんと守るよ? 君が俺と付き合っている間、俺は御三家に手を出さない。鶴羽にも指示は出さない」

「……鹿島くんを信じるとか無理なんだけど」

「だったらどうしてこんなくだらない条件で俺と付き合うことにしたの?」

「……御三家の傍を離れるのに丁度よかったから」


 何をしても、きっと御三家は最後に私を許してくれる。それに甘え続けることがどこまでも心地よくて、どこまでも後ろめたかった。

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