第四幕、御三家の幕引
「さぁ、高校のときはバイトしてなかったから分かんないけど」

「今いくら?」

「時給三千」

「たっか!」


 それ怪しいバイトでしょ! と、寒いのも忘れるくらい驚いたし、なんなら叫んでしまった。お陰で、大混雑の人通りの中でさえ、なんだなんだと顔を向けられた気がした。慌ててマフラーに顔を埋める。


「……それ何のバイトなの?」

「かてきょー」

「……そんなに貰えるんだ」

「友達と比べても高いほうだけどな。俺は運よくいいとこにあたっただけ」


 それにしたって、時給三千円って……。勉強を教えてたら一時間で済むわけないし、一回教えるだけで六千円とか九千円か……。


「私も大学生になったらそういうバイトしたいなぁ」

「いいじゃん、うちの大学来たら俺が引き継ぐよ。相手中学生だし、ソイツ弟もいるし」

「彼方の大学は私には無理だよ……」


 私の成績がいいと言っても、所詮は花高でのこと。月影くんがずば抜けてできるだけで、花高自体の学力レベルは全然高くない。それどころか、私達の学年は御三家のお陰で近年稀にみる良い結果を期待されてるだとか。


「えー、うちの大学程度なら大丈夫でしょ」

「程度じゃないよ! 彼方の大学が上から数えて何番目だと思ってるの!」

「てか亜季ちゃんどこ行きたいの?」

「……北海道」

「お、いいな。北国は美人多いし、遊びに行く」

「受験はこれからなんですけど……」


 さも行くことが決まっているかのように言われても、それは優秀な彼方だから言えることなんだよなぁ……。ショッピングモールの中に入って、マフラーをほどきながら溜息を吐いた。


「いいなぁ、彼方は」

「ん?」

「頭いいじゃん。羨ましい」

「フツーフツー。駿くん見たら心折れるよ、鬼の暗記キャパ持ってるから」

「月影くんは別格じゃん」

「お陰でいくつ弱味を握られたことか……総くんとスペックが逆じゃなくてよかったよ……」


 一体何の弱味を握られているというのか。ただ少なくとも、松隆くんは弱味を握れば年上だろうか敬愛する兄の親友だろうが構わず脅す (と思われている)らしい。


「そういえば、最近の総くんはどう? ちょっとは丸くなった?」

「丸いふりして(とが)りまくりだよ」

「変わんないなぁ。なんであんなに尖ったんだろう。昔はもっと丸々してたのに」

< 70 / 463 >

この作品をシェア

pagetop