第四幕、御三家の幕引

 松隆くんが丸々? 物理の話? 全く意味が分からずに首を傾げる。


「昔は大人しかったんだよ、総くん。物静かで、部屋の隅で本ばっかり読んでるような子だった」

「……あれが?」


 王子様のふりした暴君王様が?

「あぁ。栄一が出かけるときだけ後ろついてくるようなだった。人見知りで中々懐いてくれなかったけどなぁ、懐けばすぐに寄ってきて可愛いもんだったよ」


 あれが……? 松隆くんが他人に懐いてる様子なんて想像もできない。甘えてるといえば、せいぜい桐椰くんくらいだけど、どちらかというと我儘を言っても許してもらえるという意味の“甘えてる”で、そんなに可愛げのあるものじゃない。


「やっぱ中学で反抗期入ったせいかなぁー。小学校の途中から今の片鱗はあったけど……」

「反抗期に入った原因は?」

「うちの弟が反抗期に入ったせいじゃね。一緒にはじけちゃったんだろ」

「桐椰くんの反抗期……?」

「父親が丁度いなくなったからさ」


 あの桐椰くんに反抗期なんて、と目一杯変な顔をしてみたけれど、その理由を聞いて、口にしようとした言葉を飲み込んだ。


「まだ遼が小学生か中学生だったからなぁ。顔に出てる以上に堪えたんだろ」

「……それで、結局お父さんは……」

「……さぁ。もう少しで死んじゃうんじゃないかな」


 口籠った甲斐なく、彼方の横顔には(かげ)りが差したし、その台詞の意味もよく分からなかった。


「少なくとも言えるのは、身近で人がいなくなるっていうのは、あんまいいことじゃねーなってことだな」


 続いた台詞の意図も、分からないまま。


「で、マドラーだっけ?」


 するりと話題を変えられ、慌てて彼方が示す先を見た。キッチン雑貨のお店で、グラスの中にガラス製のマドラーが入っている。マドラーの先端に動物がついていて、その動物の色に合わせたビーズが棒の部分に入っていた。


「あ、普通に可愛い」

「俺のセンスが疑われてた……?」

「や、そうじゃなくて、鹿島くんにあげるには可愛すぎるなぁって」


< 71 / 463 >

この作品をシェア

pagetop